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――彼は、何も言わなかった。
ただ、何も言わずに隣で雪が落ちて行くのを見ながら空を仰いだ。




 「夜の雪は、思っていたよりもずっと暖かいんですね」

 「だから溶けやすいんだよ」



まぁ、溶けてもいいんだけど、と続けた沖田さんは寂しそうに見えた。




 「溶けたら、そんな雪の事なんてみんな忘れてまた次の年、まるで初めて見たように喜ぶ姿が好きじゃない」


 「それなら、雪を取っておきませんか?」

 「だとしても溶けちゃうじゃない」

 「それでも、そうすれば忘れる事はないでしょう?」




そういうと、彼は笑いそして「そうだね」と目を細めた。

――そうすれば、君には覚えていてもらえるのかもしれない。




 「どんな変わり者にでも覚えていてもらえるならいいかもしれない」

 「変わり者って、」

 「君といればなんかどうでもよくなってくるよ。さて、中に入ろうかな。明日は朝から稽古があるし。君もなんとかは風邪をひかないって言っても、こんな寒い中に居れば凍っちゃうかもしれないよ」




そんな軽口も、いつもの調子に戻ったのだ思う。

しんしんと降る雪が、淡く淡く積もって行く。
そんな寒い夜の、暖かい雪の話。




『雪解け』


.

雪が解ける時、彼の命は消えゆく時。
それでもきっと彼女は覚えて居てくれる彼はそう思えたからこそ、
今日も、笑って居られる。

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作者名:夢桜 | 作成日時:2017年2月16日 11時

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