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あの日は、まだ夏が過ぎたばかりの残暑の残る暑い日だった。
店の前で起きた浪士の喧嘩に戸惑っていると巻き込まれそうになったところに浅葱色の羽織を羽織った彼がたった一人で、助けてくれた事を。
今でもよく覚えている。
壬生浪士組だとか、新選組だとかそう言った名前の噂はよく耳にしそしてそんな彼等をよく知ろうともせずに悪人だと決めつけていた、そんなときの出来事だった。
「――大丈夫か!?」
その場にしりもちをついて起き上がれずにいた私を、一番に助けてくれたのも彼だった。
「怪我とかしてねぇよな!?わりぃ、驚かせちまって…」
「あ、ありがとうございました…」
「え?あ、や、別にどうって事ねぇって、じゃあな」
きっと、感謝なんてしなれてなかったんだろうと思う。
彼はそれだけ言って去ろうとしたからその羽織の裾を私はただその時の勢いで掴んでしまった。
「あ、の!お礼を――」
「え!?礼とかそんな別にいいって!俺等はコレが仕事みたいなもんだし」
「そんなわけにはいきまへん、お侍さん命かけてくれはったんに。」
あの日、初めて藤堂さんはうちの茶屋の団子を食べたと言った。
「うっめぇ!オレ、団子とかすっげぇ好きだし来てみたいとは思ってたんだけどよぉ、ここ女の客ばっかで入りずらかったんだよなぁ」
「いつでも来てくれはったら。そないに美味しい美味しい言うて頂けたら嬉しい。」
「――いや、でもさ俺等が来たら町方からの目とか」
「今日、助けてくれはった事実は変わりないんやしもしなんか言われたら私、ちゃんと言い返しますよ。みんな誤解してるって。せやから、また来てください」
心優しい彼の事だ、きっと周りからの目を気にしてこの茶屋に客が来なくなる事を考えてしまったんだろう。
――そう言ったあの日から、ちょくちょく茶屋へと顔を出してくれるようになった藤堂さんとだんだん距離がなくなっていくのを感じながら。
だんだんと、雪のように淡く募る想いをひた隠しにしていた。
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作者名:夢桜 | 作成日時:2017年2月16日 11時