【◇】Starting Over

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A(やめたら何か変わるかな)

A(もうあんなにみんなで喜べる瞬間は訪れないかもしれない)







もしもやめるとしたら何が残るのだろうと考えていた

らしくないなと思いつつもそうやって考えていないと嫌なことばかり思い出してしまう

結局出たのは思い出しか残らないということ。









A(今きっとここで野球から離れてしまったらもう二度と戻れない)

A(今ここにいるのは当たり前の事じゃない、あの時完全に無理だと思ってたのに)









イップスになって出来ない自分に苛立って

背番号も剥奪されレギュラー降格

挙句の果てには野球をするのに必要なものをほぼ全て捨てられた。









A「なんで上手くいかないのかなぁ」








自分が悪いってことはわかっている

でも全部自分が悪いのかと聞かれたら微妙な気持ちがそこにはある

なんで生まれてきただけでそんなに責めたてられなきゃいけないのか

母親の生き方が間違っているとは思えない

もう何がなんなのかわからなくなってくる。









「なんだ、お前も起きてたの？」








階段に座り込み自分の腕に埋もれていると

後ろから声が聞こえた

こんな時間に人が起きているはずがないと思っていたのにA以外にも起きている人がいたのだ。

突然声をかけられ心臓がとび出そうになったがそれを抑えて後ろを振り向くと…









A「一也…」

御幸「寝れねぇの？」








そこにいたのは御幸だった

もし他の先輩だったらそれはそれでAは緊張して気を使ったことだろう

振り向くまで強ばっていた顔が少しずつ元に戻っていく

寝れないのかと聞かれたAはただ黙ってその言葉に頷いた。









御幸「………だよな、俺も一緒」

A「寝れなかったの？」

御幸「まぁそうかな、なんか色々考えてるとたまに寝れなくなることってあるだろ？」

A「ある」







何を考えていたのか、とは聞かなかった

お互い深いことは探らない

御幸からすればAが何を考えて眠れていなかったのかわかっていたかもしれないが。








A「何？座らないの？」







しばらくぼんやりとつま先を見ていたAだったが

いつまでたっても後ろに突っ立っているままの御幸のことが気になって仕方なかった

座るなら座ればいいのに。

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