Summer ページ10
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「ん……」
ちりん…
という風鈴の素朴な音に目を覚ました。
彼と別れたあと、僕は雲の上を歩くような気分で家へ帰り
ずっと開くことのなかった当時の日記を読み返した。
その時何を見たのか、何を聞いたのか、どんな気持ちになったのか。
僕は彼らとの青春を夢中になってそこに記していた。
時に笑い、涙を流し
その思いの詰まったノートを大切に抱えて、僕は眠っていた。
時計は午前2時を指していた。
月明かりが部屋を薄く照らし、
初夏の風にカーテンが揺れる。
僕はカーテンを少し開けて窓のさんに腰掛け、近くを流れる多摩川を眺めながら煙草に火をつけた。
北斗が生きていた。
しっかりと呼吸をして、たくさん話をして、笑っていた。
僕はそれだけで、自分の生きている意味があるように感じられた。
不意に伝った涙を拭い
理由もなくスマホを手に取ると、彼からメッセージが届いていた。
『今日はありがとうございました。楽しかったです。』
別れて割とすぐに送ってくれていたらしい。
彼の誠実さが伝わる。
『こちらこそありがとう。僕は暇してるから、松村くんの都合が合う時またご飯にでも行こう』
僕はそう返信を打って、煙草の火を消した。
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作者名:ななみや | 作成日時:2023年7月9日 18時