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もう涙枯れた、と重たく腫れた瞼を拭うと、北斗はくしゅんとくしゃみをした。
北斗は電話の後すぐ家を出てきたようで、この季節にしては薄着だ。
ーー風邪ひくよ。
僕が言って羽織っていたカーディガンを彼の肩にかけると
俺の家行こ、と北斗が誘ってくれた。
北斗の部屋は、思いのほかこだわりの無い殺風景な部屋だった。
よく見れば部屋の隅にパッチワークやら画材やらがぎゅうぎゅうと寄せられていて、美大生だなぁ、と思う程度の。
「…適当に座って」
「…うん」
北斗は温かいココアを出してくれて、僕らはベッドに寄りかかるように並んで座った。
僕はなんだか落ち着かなくて、部屋を何周も見回してしまう。
とうとう来てしまった。北斗の家に。
「…はぁ、ごめん。なんか変で」
「……うん、俺も」
僕は少し北斗から距離をとった。
さっき彼を抱きしめた時の感触が、今もリアルに残っている。
これ以上近くにいたらどうにかなってしまいそうだ。
「…俺、いいのかなって、いつも思う。こんなどうしようもない俺が…京本と一緒にいて」
「…僕は北斗といられるだけで嬉しいよ」
「……ぁ、ぇ、と」
北斗は照れくさそうに小さく頬を緩めた。
…あぁ、もうどうしよう。
可愛い。
「そんなに自分を卑下しないで。北斗は綺麗だよ。…何もかも」
「……ぅ、そんなこと、な、」
「ある。僕の止まったままだった時間を、君が進めてくれた」
開いた距離を少し縮めて、僕は言った。
…僕は、あれからずっと灰色だった。
僕の人生に色をつけてくれたのは間違いなく北斗だから。
「……北斗が好きだよ」
ずっと言えなかった想いが、あっさりとこぼれてしまった。
「…きょ、もと」
「…好きだ」
「……そんな……俺、うぅ、」
目の前の北斗が、宝石みたいな涙を零した。
それ以上泣いたら、身体の水分全部なくなっちゃうよ。
…なんて冗談を言って余裕ぶりたかったけど
実際は理性を保つのに必死で。
僕は北斗から目を背けた。
「…ごめん、やっぱり帰るね」
「…え？」
「近くにビジホあるだろうから。…今日、疲れたろ。僕がいたら落ち着かないと思うし」
「え、ちょ、…京本」
すぐにこの場を離れなければと思った。
触れたいと思ってしまう。
…でも、これ以上はだめな気がする。
「っ、まって…！」
ギターを背負い、玄関へ向かおうとした時だった。
背後から北斗に抱きとめられた。
ずるい。逃げないで、きょうもと。
と、強烈な殺し文句付きで。
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作者名：ななみや | 作成日時：2023年7月9日 18時
