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taiga side
…何か、聴き逃してはいけない言葉を突然言われた気がした。
思いつくまま奏でていたギターを止めて、目の前の気配を見上げると
想像した通りの彼がいた。
「…北斗。来てくれたんだね」
「……ごめん」
赤い顔をした北斗は唇をきゅっと結んで僕の隣に座った。
「…なんでごめん？」
「今日行けなくて…色々、迷惑とか、心配かけたかも、しれないし、あと…」
北斗は祈るように両手を組んで俯く。
酷く不安な気持ちになっているのだと、手に取るようにわかる。
…正直、本当に来てくれるとは思っていなかった。
会う相手が樹ではなく僕だから。
しかもこんな暗闇をわざわざ来るのは大変だったはずだ。
「…北斗の方がずっと大変な思いしただろ。謝ることないよ」
「……ぅ、ぅう、ん、あの……」
北斗は指先を擦り合わせながら言葉を探している。
黙って続きを待っていたが、あの、えっと、と似た言葉をしばらく繰り返したので、僕はギターに手をかけた。
もしかしたら、全くの沈黙よりは話しやすいかもしれないと思ったからだ。
じゃーん、と適当にコードを鳴らすと、北斗ははっと僕を見た。
僕はにこりと微笑んで、先程まで演奏していた金木犀の夜のイントロを奏でる。
「…この歌好き。…俺もさっき歌ってた。歌いながらここに来た」
「へぇ、そうだったの。
…運命だねぇ、なんて」
ギターの音に紛れさせて、冗談めかしく言う。
聞こえて欲しいような、欲しくないような
曖昧な気持ちが歌詞に重なる。
「…俺ね、今、すごくいい加減なんだ。矛盾だらけで曖昧。…ぐちゃぐちゃ」
ギターの音があるからか、北斗は少しずつ言葉を紡いだ。
「ライブの時は、会いたくないって思ってたのに…今は、すごく会いたかった。
…あの頃は、このまま時間をいつまでも繰り返せたらって思ってた。
…今は、ずっと…貴方のことばっかり考えてる。
京本といると、どんな暗闇も怖くない。
…あなたに出会えてよかったって思う」
「…でも、同時にそんな自分が憎くなって……殺したくなる時がある」
目尻に溜まった涙が、ポロリとこぼれた。それから壊れてしまったように、北斗は左右の瞳からぼろぼろと涙をこぼした。
「…北斗」
「…僕も、北斗に出会えてよかったよ」
僕は抱えていたギターをケースに納め、そっと北斗を抱きしめた。
北斗は僕の腕の中で、しばらく泣いていた。
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作者名：ななみや | 作成日時：2023年7月9日 18時
