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『はじめまして。京本大我です』
僕がお辞儀をすると、彼…北斗も、ぺこりと頭を下げた。
細い縁のメガネの先で、きょろきょろと忙しない視線。
よろしく、とその目を見て言うとやっと目が合った。
吸い込まれるように真っ黒な瞳。
……綺麗だな、と思わず惚けた。
『あぁ〜緊張したぁ』
僕らが軽く挨拶を終えると
北斗の恋人であり僕の友人の高地が大袈裟に脱力する。
『安心したらトイレ行きたくなっちゃった。2人で席取っておいてくれる？』
『なんだよそれ。早く行ってこい』
高地の尻を叩き、北斗と店内を見回すと、窓際の4人席が空いていた。
僕と北斗が対角線上に座ると、少ししてウェイターが3人分の水を運んできた。
僕、北斗、北斗の隣にそれぞれグラスを置いて、一口含む。
……。
話題がない。
僕はこういう時、他愛のない世間話ができない。
高地なら、空気を読んで話をぽんぽん広げてくれるのだが。
北斗は僕と同じ部類らしく、テーブルに置かれたメニューをちまちまと整えている。
僕はその様子を横目に、グラスを伝う雫をぼーっと眺めていた。
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「…上京してたんですね」
2人分の飲み物を注文し、窓ガラスを叩く雫が繋がって落ちていくのを眺めていると
彼が不意にそう言った。
「あ…うん。松村くんもこっちに来てたんだね」
「はい。なんだか、地元にいると息が詰まって」
「うん、……」
分かるよ、と言いかけた口を噤んだ。
「……元気にしてた？」
「…まぁ、ぼちぼちです」
彼は僕に、上京してからの話をぽつりぽつりと話しはじめた。
地元を離れたくて東京の大学を受験したこと。ひとり暮らしをしていること、服飾関係の勉強をしていること。
「でも……去年の今頃、1度だけ実家に帰りました。
…三回忌だったので」
彼が高地の話をしたのは、その時と案内を変わってくれた時だけだった。
気づけば3時間以上話していた。
雨も止んでいたので
そろそろお開きにしようと僕が切り出し
連絡先を交換して別れた。
彼の背中を見送った後も
しばらく余韻で頭がぼんやりとしていた。
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作者名：ななみや | 作成日時：2023年7月9日 18時
