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彼を連れていく場所として浮かんだのはただ1つ。地元の湿地公園だった。
あそこは緑が多くて静かだから視覚的にも精神的にも落ち着くし、夏の夜は蛍が綺麗に見える。
今は真昼だけど、今度は夜の楽しみも教えてやろう。
「…へぇ、なんか、思ってたのと違ったなぁ」
目的地に着くと、北斗は周囲を見渡しながらどこか嬉しそうに呟いた。
「なに、思ってたのって？」
「キャバクラにでも連れてかれんのかと」
「アホか…もっと酷くなるようなとこわざわざ行くかよ」
樹が突っ込むと北斗はおかしそうにけらけら笑う。
俺のイメージどんだけチャラいんだよ。
…とりあえず、落ち着いてきたみたいでよかったけど。
「この公園、俺の子供ん時からの行きつけなんだよ。夜には蛍いてさ。街灯少ないから、綺麗に見えるよ」
「…へぇ、じゃあこの辺り、夜は暗いの？」
「まぁ…結構暗いかな」
その時北斗の表情に影が浮かんだのを、樹は見逃さなかった。
「…大丈夫か？」
「…うん、」
「…俺さ、夜が怖いんだよね」
北斗は小石を足先で転がしながら、小さく言った。
「陽の光が入らない薄暗い密室とか…そういうのも怖い。
…それで、ああなって」
「…あぁ、」
陽の光の入らない密室。
デッサン室がほとんどそうだ。
デッサン室は、光源が変わることで影の向きが変わるのを防ぐため、窓がなく、教室みたいに長細い蛍光灯が天井に張り付いている部屋が多い。
…さっき北斗が発作を起こしていたアトリエは地下にあり、教授の趣味で電気をあまり付けない所だった。
「…これ発症したの、割と最近なんだよね。ハタチにもなって、ちょっとキモいよな」
「…まぁ、理由もなく嫌いなもんって誰でもあるもんじゃね？特別変なわけじゃねーと思うよ」
「…樹、モテるでしょ？」
「あ？」
「そういうのサラッと言えちゃうとこ。かっこいい」
んへへ、と北斗は幼い笑みを浮かべて上目遣いに樹をみた。
まだ出会ったばかりだけど、北斗のこういう表情は珍しいんだろうな、と樹は思った。
「…暗いところにいるとさ、…なんか、思い出すんだよね」
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作者名：ななみや | 作成日時：2023年7月9日 18時
