Fall ページ23
大我side
むさ苦しい地下のライブハウスを出ると、外は明るいネオンの街に変わっていた。
街の喧騒にうんざりしつつ、今何から始めるべきかと考えをめぐらせる。
「行ってくる」とジェシーに意気込んだものの、僕は北斗の家へ行ったことは無い。
メールも電話も、あんな調子じゃ見てくれるか分からない。
…なら。
…分からなくても行くしかない。
最寄り駅は最初に会った時に聞いた。
そこからは自分の努力次第だと思おう。
俺は坊ちゃんで世間知らずかも知れないけど、こういう時の運と諦めの悪さは誰にも負けない。
…とにかく、早く会いたい。
気持ちはただそれだけだった。
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北斗の住む駅は神奈川寄りの小さな街で
必要最低限のスーパーや画材屋があるだけの、美大生が住むための街、といった印象だった。
似たようなデザインの学生アパートが並び、独特なセンスの服を着たいかにも美大生らしき人と度々すれ違う。
その度に北斗の事を思い浮かべた。
時折電話をかけてみたものの音沙汰なし。
こんな状況から見つけ出すのは到底不可能だ、と思う。
僕は少し街をうろついた末、駅の改札脇に腰を下ろした。
…だったら、ここに北斗が現れるまで何日でも待ってやる。
…ちゃんと好きって伝えないと。
膝とギターを抱える腕に力が篭もる。
ざりざりと目の前を通る人の足音を聞く。
まるで僕だけが世界から切り離されてしまったようだった。
ぽつりぽつりと通る人の影が減り、周囲の灯が消え始めた。
…その時、ひとつの影が目の前で立ち止まった。
「…アンタ、大丈夫?」
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作者名:ななみや | 作成日時:2023年7月9日 18時