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渋谷から電車で約1時間

改札を出ると、そこは閑静な街だった。

僕はあてもなく一人旅をするのが好きだが
こういう雰囲気の場所へたどり着くと、アタリだな、と思う。


住宅街を進むとだんだんと緑が増え
青臭い匂いが濃くなると北斗は歩を止めた。


…たどり着いたのは、小さな湿地公園





まるで全ての音を吸い込んでしまったかのように、静かな場所だ。

僕らはベンチに並んで座った。





「…ごめん。急にこんなところに付き合わせて」

「ううん。僕もこういうところ好きだよ」

「……うん」





知ってる、という風に彼は力なく頷く。

それは単純に嬉しいけれど、やはり彼の元気のなさが普通じゃない。

忙しい日が続いて、弱ってしまったみたいだ。





「…よっぽど大変だったんだね」

「うん…ちょっと疲れた」





彼は目を閉じて、僕の肩にもたれた。

鼓動が少し速まる。

肩を抱いてあげるべきか、頭を撫でるべきか。

労い方が分からなくて手を浮つかせていると、彼は薄く唇を開いた。





「……ここ、樹に教えてもらったんだ」

「…樹?」

「うん…前に話した、酒と煙草と女が主成分の」

「…あぁ、」

「…少し、周りを観察してみて」

「…?うん」





池か緑しかない周囲に僕は目を凝らした。
薄暗くてよく見えないけど、それでもいいのかな。




「…あっ、」




…ふと、池の方で小さな光が灯った。




「…蛍?」

「…うん。綺麗でしょ…」




ぽっと灯ってはすうっと尾を引いて消えていく光。

ロマンチックだけど、少し儚い。

…こんな情緒を、北斗は他の人と分かちあったのか。




「…ねぇ、北斗。今やってるバンドなんだけど、2週間後にライブをやることになったよ」

「…え、ほんと?…見に行きたい」

「…うん、是非」

「楽しみ……ジェシーって人、紹介してよ」

「それはダメ。ジェシーにはみんな一瞬で虜になっちゃうから」

「…そんな、心配する?……ふふ、樹と…行くね……」




北斗はそのまま唇をぽやっと開いて、寝落ちてしまった。




「…樹、」




…俺は

北斗の唇をこじ開けて、舌をねじ込んでやりたくなった。


…でも、ギターのせいで指がぼろぼろだったから辞めた。

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作者名:ななみや | 作成日時:2023年7月9日 18時

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