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練習を終えてジェシーたちと別れ、僕は自分の手を見つめた。
タコができて皮がむけ、少し血が滲む指先。
腕の筋肉痛と、頭の中に残る激しい音の余韻。
…嫌な疲れじゃない。
日が落ちても明るい渋谷の街を、僕はスキップでもしたい気分で歩いた。
…このまま、北斗に会いに行きたい。
…でも、きっと彼はまだ忙しい。
ここは我慢。帰ったらギターの自主練でもしよう。
…そう、思った時だった。
「…京本、!」
改札の前に、彼がいた。
「北斗…?!びっくりした、本物?」
「…うん、本物」
久々に見た下手くそな彼の笑顔。
目元にはくまが浮かんでいて、疲労の色が伺える。
「…疲れてるね。渋谷に用事?課題は?」
「あ…課題は、今日終わったところで。…渋谷で音楽やってるって前言ってたから、ここにいれば京本に会えるかもと思って」
「……、」
…なんてことを。
「…連絡くれればよかったのに」
「邪魔したくなくて。…顔見れたらラッキー、くらいの気持ちで来たから」
「…そう」
言葉にできない気持ちが、僕の中を駆け巡る。
……さっきから北斗は
まるで僕に会いたくて仕方がなかったみたいなことを言う。
「…全然、今からは暇だよ。…じゃあどこか、お店にはいる?」
「あ、えっと…なら、行きたい場所がある」
「…?」
「…課題やってる時に、ずっと行きたいと思ってたんだよね」
「…俺と?」
「うん…」
余計なもので溢れる場所よりも
…静かな場所で、二人でいたい。
……そう、北斗は言った。
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作者名:ななみや | 作成日時:2023年7月9日 18時