桜のあと (ページ15)

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「音楽…いいね。でも、肝心の歌声は聴かなくていいの？」

僕が笑うと、彼も楽しげに笑った。

「ahaha！聴きたい、聴かせて！歌は俺がリクエストしてもいい？」

「…勿論。さっき言った歌手あたりだったらいけるよ」

僕はぶるぶると唇を震わせてウォーミングアップをする。

あんな歌声を聴いてしまった後だからちゃんと声が出るか不安だな、なんて考えていると

…とても良く聞き慣れた、バンドの曲の前奏が流れ出した

「ふふっ…これは、カラオケ向きじゃないよ」

「…確かに。でも、大切な歌なんでしょ？」

ディスプレイには〝桜のあと〟と表示された。

『京本家の名に恥じぬ行動を』

中小企業の社長を務める父の一人息子である僕は、生まれた時から後継として厳しく育てられた。

僕は家にいると息が詰まって、嫌で嫌で仕方がなくて

とうとう高校受験で失敗をしたふりをした。

おかげで家に居場所は無くても、高校はお気楽に、気の合う親友と毎日楽しく過ごせた。

…密かに、叶わない夢も見つけた。

ある日、とある動画に釘付けになったのだ。

UNISON SQUARE GARDENの、約11分のライブ映像。

小さなライブハウスで、お客さんと一体になってひたすら音を奏でる。

僅かな休憩の間も誰かが音を鳴らし、ひたすら歌う、歌う。

そこに居る誰もが一瞬たりとも無駄にせず、全身全霊で音楽を表現し続ける姿が、僕の目には何よりも眩しく映った。

僕はこんな音楽をやりたいと思った。

それを唯一打ち明けて、肯定してくれた親友と最後に歌ったのが、そのライブ映像に収録される〝桜のあと〟だった。

「えっ…大我…？」

ディスプレイのライブ映像がぐにゃぐにゃに歪んで見えた。

……もし、北斗と再会しなければ。

僕はこの歌を死ぬまで聞かなかっただろう。

こうして誰かと〝音楽をやろう〟なんて話をすることも、きっとなかった。

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ジェシーと別れてまだ空いている朝の電車に乗って帰り
最寄り駅から家までの道のりを歩く間、僕は北斗に電話をかけた。

「んん……もしもし…」

「あ…ごめん。寝てたかな」

「いや……全然大丈夫れす……」

寝起きで電話越しだと色気が二割増だな。
僕はついくすくす笑って、携帯を持ち直した。

「……北斗、急なんだけどさ。僕と出会ってくれてありがとう」

僕が言うと、彼はふへへと照れたように笑った。