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『今からカラオケ行かない？』
珍しく北斗以外の人間からのLINEが届いたのは、小さな楽器屋で店番をしている時だった。
バックヤードで船を漕ぐ店主を尻目に名無しのアーティストのレコードを垂れ流し
本当は声を上げて熱唱したいのをふんふんとハミングで我慢していたところだったので
なんだか余計に魅力的なお誘いに思えた。
「大我！来てくれたんだ〜嬉しいな」
午前5時
明け方の青い渋谷に、ジェシーは姿を現した。
飲みの帰りなんだろう。テンションはシラフの時と何ら変わりは無いけれど、今日は少し酒臭い。
「やぁ、飲みサー覇王のジェシー」
「ahaha、不名誉な肩書きだなぁ」
「こんな時間から人を呼び出す大物は君くらいしかいないよ」
「hehe、迷惑だった？この曜日は夜勤って言ってたような気がして」
流石覇王
先日ちらっと話した事もよく覚えている。
それから次から次へと弾む会話(主に僕に対する質問)に答えながら僕らは人気のない街を少し歩いて、カラオケ店に入った。
ほとんど客のこない楽器屋とはいえ、夜勤明けは多少疲労が残る。
温い炭酸で乾杯をして喉を潤すと、やっとそれが少し癒された。
「大我は、普段どんな音楽を聴く？」
「ん〜1番はミスチル。あとはスピッツとか
KingGnuとか…邦ロックをよく聴くかな」
「へぇ…いいね。俺も好きだよ」
彼は嬉しそうに笑うと、慣れた手つきでパネルを操作し、瞳を閉じてマイクを握った。
「…俺の十八番。聴いてよ」
酔っているから気持ちよく歌いたいのかもしれない。
眠いから丁度いいな。
僕が腕を組んでうとうとしかけた時、
耳に流れ込んできたメロディーにすうっと心を撫でられた。
……これが、ジェシーの声。
普段の彼からは想像もつかないような、ブランデーみたいに甘い歌声。
彼の優しさと慈愛に満ちた心に、そっと包まれているような。
「……なんか、口説かれてるみたい」
「…here、そのつもりだよ」
甘い声と共にふわりと頭を撫でられて、僕はぱちぱちと瞬いた。
「……本気？」
「冗談」
「…なんだ」
僕がほっと胸を撫で下ろすと、彼はAHAHA！！と今日1番の声で大笑いした。
「まー、口説くって事には違いないかな？」
「…どういうこと？」
「授業で声を聞いた時から、綺麗だなぁと思ってたんだよ。音楽も好きみたいだし」
「…つまり？」
「…俺と、音楽やらない？」
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作者名：ななみや | 作成日時：2023年7月9日 18時
