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大学で講義を終えると、構内の図書館で課題をやる。
時にふらふら旅をしたり、演劇を見に行ったり。
生活費の為の日雇いバイトを月に何回か。
小遣い稼ぎ兼趣味で、小さな楽器屋の夜勤を週に2回。
そんな僕の実りのない大学生活が、少しずつ色をつけ始めている。
『こんにちは。今日は午前で終わりだよ。会えるかな』
スマホに表示される、まだ不慣れな印象のメッセージに頬がほころぶ。
『会えるよ。今講義終わったところ』
なんか、デートをするみたいな気分なんだよな。
少し浮ついた気持ちで、僕は今日の行先に思いをめぐらせた…
「…あれ」
北斗と会う日はいつも同じ音楽を聴くイヤホン。
さっと取り出せるように、トートバッグの外ポケットに入れているはずのそれがない。
バッグを机に置き、中身をひっくり返してみてもやっぱりない。
…どこかで落としたかな。
「…ねぇ、なにか探してる？」
僕が辺りを見回していると、近くで講義を受けていた学生に声をかけられた。
えっと……誰だっけ。名前は分からないけど有名人だ。
僕がひとつ頷くと、彼はにこりと笑った。
「分かった、イヤホンでしょ」
「え？」
「あ、誤解しないで！俺が盗ったとかじゃなくて、…君、いつもイヤホンつけて帰っていくから、そうかなと思っただけで」
「はぁ…」
僕は陽キャに観察されていたらしい。
なんとも言えない気持ちで斜め下に視線を逸らすと、彼はそんな僕に構うことなくリュックの中からごそごそと何かを取り出した。
「…はい、俺のイヤホン！見つかるまで貸してあげる」
「え？あぁ、いいよ。家に忘れてきただけかもしれないし」
「ふたつあるから！いいから使って！」
「え、えぇ」
全身から陽のオーラを放つ彼にぐいぐいと押されてしまえば、僕はうんうんと頷くしか無い。
「……じゃあ、ありがたく。」
「んよし、交渉成立。じゃー、連絡先交換しよ？」
「はぁ、」
「返してもらう時必要でしょ？」
勢いとテンポの速さに息切れしそうだ。
僕はまたうんうんと頷いて携帯を差し出した。
「やった！俺ずっと君と喋ってみたかったんだよね…て、ごめんね、俺ばっか喋っちゃって。俺、ジェシー。What's your name？」
「…京本、大我です」
「大我！よろしくね」
彼は僕の両手をぎゅっと包んで笑った。
…僕は彼の笑顔に、どこか懐かしさを覚えた。
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作者名：ななみや | 作成日時：2023年7月9日 18時
