File.18-49 ページ10
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船旅というものは、閉塞的だ。
飛行機や電車といったものより閉鎖的な感覚になるのは何故なんだか。飛行機の方が空中に隔離されているのに、船の方が孤立している気がするのは、個別に部屋が与えられているからかも知れない。
普通のホテルのような見た目をしているのに海の上、という違和感が然うさせているのだろう。
「ボク、蛍ねえちゃんのお部屋遊び行きたい!」
若しかすると、飛行機より逃げ場が無い所為かも知れない。
「良いけどコーヒーか紅茶しか出せないよ?」
飛び降りたって海しか無いのだから、飛行機より窮屈だ。
エッグやら横須賀の城やらの話を一先ず切り上げて解散となった時、与えられた船室へ戻ろうとした数歩後に背後から掛けられた声。振り返った先には、声の主である少年が満面の笑みで立っていて、一層恐ろしさすら感じる。
若干引き攣りそうになった頬を何とか抑えて柔らかく笑みを称えて首を傾げれば、相変わらずな元気さで「うん!」と返事が跳ね返ってくる。何ならジュースよりコーヒーの方が良いのだから、彼からしてみれば断る理由は無い。
「蘭ちゃん、この小さなKnight借りて行くね」
「う、うん...」
私が態々蘭ちゃんへ確認を取った事にか、其とも他に何かあるのか、やや引っ掛かるような口振りで頷いた彼女へ僅かに疑問を抱きつつ背を向ける。如何したんだと聞いても良いが、彼女の性格からして今直ぐ此処で解決させてくれる様な事では無いだろう。構わず脚を運んで廊下を進む間、斜め後ろを着いて来る少年は特に何かを言う訳でも無く、考え込んでいるような真剣な面持ちを見せている。
蘭ちゃんのあの雰囲気と、少年のこの神妙さは関係が有るのか無いのか。
「どーぞ、小さな探偵さん」
客室が並ぶ廊下を進んだ先。
辿り着いた部屋の扉を開けて、背後の少年へ声を掛ける。先に入って何かを隠すだとか片付ける、だなんて事も無く招いた事に少々驚いたのか、子ども特有の大きく丸い双眸を数回瞬かせた少年は、然し普段通りの表情と雰囲気を取り戻して室内へと入って行く。
小さな背中を見送りながら廊下を一度見渡し、扉を閉める。耳許を占領し続けているイヤホンからは新幹線内のアナウンスが聞こえていて、呑気に聞き耳を立ててくる相棒に不満すら湧くが変わってくれとは言えないので仕方ない。
目的地は同じなのに、こうも違うと不公平だ。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年3月23日 21時