File.18-46 ページ7
「西野さん、灯りを消して！」
鏡の仕掛けに気付いたらしい少年が、壁の照明スイッチ近くに立っていた西野さんへ突然指示を飛ばすも、優しい彼は「あ、ああ...」と若干戸惑いを見せつつも隣のスイッチへ手を伸ばしてくれる。
「くぉら！お前はまた勝手に...」
そんな毛利探偵の保護者たる叱責は落とされた照明によって遮られ、室内は突如として暗転した。
「.....」
少年がポケットから取り出した腕時計はライトとしての用途もあるらしく、それを鏡へと当てる事で反射した光が室内の壁に何かを映し出す。
「こ、これは...！？」
暗闇の中、鏡を通して壁に当たった光はドイツ様式の城を描いている。あまりにもはっきりとした陰影に、鏡の反射だけとは思えない精密さだが、そのお陰で横須賀市の湘南に建っている城だろうという事も理解出来る。
「ど、どうして絵が...」
ロシアには馴染みの無いものなのか、不思議そうな声を紡ぐセルゲイさんに対して、美術商なだけあって此方方面の知識は豊富なのか、乾さんが「魔鏡だよ」と添えている。が、名を教えられてもピンと来ないらしく「魔鏡...？」と更なる疑問を呼んでしまっている始末。
「中国では紀元前1世紀、日本だと3世紀頃からあったとされる鏡ですよ。表面に極小さな凹凸を付ける事で反射角度を調整し、文字や絵を映し出す事ができるという代物で...その昔、キリスト教が弾圧されていた時代の日本では、隠れ切支丹鏡として十字架や聖母を映して密かに祈りを捧げていたんだそうです」
日本語が流暢なセルゲイさんなら、きちんと意味も分かってくれるだろうとあまり噛み砕かずに伝えてしまったが大丈夫だろうか。
なんて考えていたのに、齎してしまった空気が抱いた問題は其処では無かったらしい。
少年は気にも留めていないが、隣の蘭ちゃんは「蛍...？」なんてやや戸惑った様に名を呼んでくる上に他の面々も不思議そうな視線を向けてくるので、彼等と同じ様に首を傾げてみせて。
「あの博学多識生き字引男と何年一緒にいると思ってるの？」
「そ、そだね...」
全く、こういう時に便利な幼馴染をもったものだ。
「沢辺さん、このお城...」
「はい、横須賀のお城に間違いありません」
それに加えて、夏美さんが話を戻してくれたお陰で話題は魔鏡の中に佇む城へと戻っていく。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 34人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年3月23日 21時
