File.18-45 ページ6
残念ながら黒インク一色で描かれている事もあって、絶対にエッグは二つある。とは言い切れないが、デザイン画を遺すにあたって頭と脚でサイズが違うなんて事は起きないだろう。
暫し、推察やら思案で室内に静寂が訪れる中。
「あっ...やべ！」
テーブルに無造作に置かれた儘になっていたエッグを手にしていた少年が、目の前でエッグの下部に嵌め込まれていた小さな丸鏡を床に落としてしまう。昨日見付けた其を少年も気になったのか、触ってみたところ鏡が外れたらしい。普通の本当の小学生ならまだしも、彼が触った位で取れるのなら、最初から取れる仕組みだったのかも知れない。
「取れちゃった...！」
「何をやっとるんだお前！」
慌ててエッグをテーブルに戻して屈んだ少年の不審な行動に、毛利探偵がやや鋭く口を開くが、
「か、鏡が付いてたけど取れちゃった...」
「なにぃ！？」
最早態との様な遣り取りに見えてくるのだから面白い。
毛利探偵だけでなく、隣の蘭ちゃんも「コ、コナン君！？」なんて慌てた様な声を上げる。8億だ何だと騒がれるインペリアル･イースター･エッグを壊したかも知れない、となると確かに焦るだろうが、価値観も金銭感覚も狂い過ぎた身からすれば取れた鏡の方が気になる。
「大丈夫よ、あの鏡簡単に外れるようになってんの。どうやら後から嵌め込んだみたいなのよね」
エッグが壊れたかも知れない、なんて事案にも落ち着いている鈴木親子の内、園ちゃんが変わらぬ明るい笑顔で蘭ちゃんへとフォローを入れているが、流石彼女の幼少期のおもちゃを担っていた事だけはある。エッグからすれば不本意だっただろうが。
鏡の取れたエッグを持ち上げて、ひっくり返して眺めてみる。膜の様に嵌め込まれていた鏡が無くなった其処は静かに口を開けていて、特に変わった部分は無い。
となると、重要なのは鏡の方だろう。
エッグを戻し、床から拾い上げた鏡を見詰めている少年の手許を見遣る。この距離からでは分からないが何かを見付けたらしい。鏡を持つのとは反対の手の平へ、室内の照明を反射させている少年。その手の平に光を跳ね返している鏡は、其処に何かを映し出している様な濃淡の反射を見せている。
隠れ切支丹鏡、でしか見た事の無い技術。
そんな精密で気の遠くなるような御業を小さく仕込むとは、香坂喜市氏とはとんでも無い魔術師らしい。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年3月23日 21時
