File.18-85 ページ46
呆れた幼馴染に溜息を吐き出すのと同時に、聞き慣れない初老の声がして目を向ける。
「何はともあれ、殺人犯がこの船にもういないと分かってホッとしたぜ...なあ?」
「はい、安心しました」
美術商だかの乾さんと、香坂家の執事を務める沢辺さんの遣り取りを眺めながら、少しだけ考えて。
「とは言え、明日向かう予定の横須賀の城にスコーピオンが現れないとも限りません...。夏美さんが良ければ、明日警察の人にも城へ来てもらっては如何ですか?」
態々警察側から申し出なくても誰かさんが同行出来るように、夏美さんへ親切な提案を投げ掛けてみる。彼女の事だから断る様な事はないだろうと踏んでいたが、若干不安そうな表情を見せた彼女は「はい、是非...」と直ぐに頷いてくれた。
「目暮警部、明日東京に着き次第、私も夏美さん達と城へ向かいたいと思います」
「わかった、そうしてくれ」
何だか今日はお膳立てばかりだな、なんて考えて。いつもの事かと思い直していれば、毛利探偵が少年へと腰を折って顔を近付けていくのが目に入る。
「オイ、聞いた通りだ...今度ばかりは、絶対に連れて行く訳には行かんからな!」
少年を預かっている身としては、殺人犯がいるだろう場所に子どもを連れて行きたくないというのは当然の判断だ。預かっている責任がある以上、両親に掛けるだろう迷惑を考えれば真っ当だが。
「いえ、コナン君も連れて行きましょう。彼のユニークな発想が役に立つかも知れませんから...」
此方としては、居て貰った方が助かる。
何と言っても日本警察の救世主とまで謳われる高校生探偵だ。居るのと居ないのとでは状況が全く違う上に、信頼と信用と安心感が格段に跳ね上がる正に頭脳。そんな事知りもしない毛利探偵は「コイツの!?」なんて驚いているが、ユニークな発想には助けられ続けているだろうに。
無自覚とは、自惚れというものは恐ろしい限りだ。
なんて、最早失礼な感想を抱いて眺めていた時。
「ねえ、蛍...ちょっと、風に当たりに行かない?」
顔色が悪い、なんて訳では無いが元気も明るさも無い蘭ちゃんが控え目に声を掛けて来るから。
「良いけど、船酔い...?」
立ち上がりながら眉を落とす蘭ちゃんへ、何も知らない雰囲気を装って疑問符を送って後を追う様に腰を上げる。苦笑して「そうかも...」なんて言う彼女へ不思議そうに瞬いてみせて。
心の中では、数分後に返すだろう言葉を探してる。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年3月23日 21時