File.18-83 ページ44
「だとすると、西野さんを覚えていた寒川さんはその事を恨んでいて...西野さんを指輪の窃盗犯に仕立て上げようとしていたのかも知れませんね」
座った儘にっこりと笑ってみせて話を戻す。
殺害方法の時点で泥棒蠍の犯行である事は分かっている。指輪は誰に盗まれていようが正直如何でも良い。そもそも本物かも分かっていないのだから。そんな事より問題は、蘭ちゃんの方。
「分かった!西野さん!アンタがスコーピオンだったんだ!」
だと言うのに、私のアシストは虚しく側溝に落ちて沈んだ。
おつむの弱いらしい毛利探偵に頼るのは、この際諦めるべきだろうか。堂々と宣言してみせた彼に思わず呆れた表情しか返せないが、件の毛利探偵は此方を見てはいない。何言ってるんだ、みたいな顔を直ぐ様戻して苦笑へと変えておく。
「毛利くん...それは羽毛の件で違うと分かったじゃないか」
「あっ、そうでした...」
本当に大丈夫だろうか。
「でも西野さん、助かったね!」
此方も此方で、隠す気の無い様子。にこにこと笑いながら然う言う少年に「え?」と返す西野さんから、そっと蘭ちゃんへと視線を流す。彼女も彼女で相変わらず険しい表情で少年を凝視めている。
「だって、もし寒川さんがスコーピオンに殺されてなかったら...西野さん、指輪泥棒にされてたよ!」
結局、少年も我慢出来ない性格なんだからもう諦めるしかない。
「ん?待てよ...。そうか!この事件、二つのエッグならぬ二つの事件が重なっていたんです!」
さっき殆ど答えの様な事を言った筈だが、漸く辿り着いてくれたようで何よりだ。警部は「二つの事件...?」なんて首を傾げているが、察しが悪いのは毛利探偵と同等か其以上のようで不安しかない。
「一つ目の事件は、寒川さんが西野さんを嵌めようとしたものです。彼は西野さんに指輪泥棒の罪を着せる為、わざと皆の前で指輪を見せ...指輪の存在を印象付けた。そして西野さんがシャワーを浴びている間に部屋へ侵入し、自分の指輪をベッドの下に隠したんです」
一度こうしてエンジンが掛かれば良いのだが、それまでが長いとは少年の日頃の苦労が涙ぐましいと想像に難くない。
「そして、ボールペンを盗った...西野さんに指輪泥棒の罪を着せるために。ところが、その前に第二の事件が起こったんです!寒川さんはスコーピオンに射殺された...」
真面目に聞いている振りも大変だ。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年3月23日 21時