File.18-82 ページ43
相変わらず凄んでくる毛利探偵と距離を取るためソファの背凭れへ身体を預けながら、取り敢えず苦笑しておく。
娘を誑かす探偵坊主相手なら兎も角、一応女子高生の私にもそんな態度で来るとは、彼が探偵嫌いなのか将亦私が彼奴と同類扱いされているのかは彼のみぞ知るところ。
「昨日、美術館で寒川さんが西野さんを見て驚かれていたので...もしかしたら、と」
乾いた笑みと共に両手で毛利探偵の接近を阻止しつつ、彼の肩越しに西野さんへと視線を投げる。へらりと笑って優しい会長秘書へ目を向ければ「本当ですか?」と不思議そうな顔が返ってくるばかり。決定打を示さない私に、ぽやんとしている西野さん。そんな話は其方退けで私を睨み付けてくる毛利探偵と、目暮警部の後ろから鋭い視線を飛ばしてくる白鳥警部補。
全く以て埒が明かない。
「ねえ、西野さんってずっと海外を旅して回ってたんでしょ?きっとその時、どこかで会ってるんだよ!」
誰か何とかしてよ、なんて悪態が思考の隅を掠めた瞬間、空気を引っ繰り返す様な明るい子どもの声が室内遊び満たした。
また此奴も、なんて呆れた表情を見せた毛利探偵は腰を起こして小学生を見遣り、西野さんは二人目の声を受けて漸く「うーん...」と記憶を掘り起こし始めてくれる。が、少年の声に険しい顔を見せたのは隠す迄も無く蘭ちゃん。
怪しむというか、証拠を掴まんとしている刑事か探偵かの様な視線。
これは駄目だな。と思って了う位に少年は気付いていない。少年の正体が露見しようが一向に構わないのだが、そうなると彼と良く一緒にいた、なんて理由で私まで詰問され兼ねない。
それは、私が困る。
さて如何して蘭ちゃんを誤魔化して騙したものか、と別の事に頭を回し始めた時。直ぐ近くで「あーっ!」と盛大な西野さんの叫び声が木霊した。
「知ってるんですか?寒川さんを!」
そんな声にも驚かず彼へ声を掛けた目暮警部へと目を向けた西野さんは、変わらず真面目な様子で「はい...」と頷いてみせる。
「3年前にアジアを旅行していた時のことです...。あの男、内戦で家を焼かれた女の子をビデオで撮っていました。注意しても止めないので、思わず殴ってしまったんです」
真面目で優しい人間ほど、怒らせた時が怖い。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年3月23日 21時