File.18-81 ページ42
彼が分からないのなら、私が考えても仕方無い。
おかしな話だが、快斗が言う事と望むことは必ず叶えてみせるというのは私の信条だ。
「しかし、スコーピオンが犯人だったとして...どうして寒川さんから奪った指輪を、西野さんの部屋に隠したんだ?」
とは言え、彼が私に何も言ってこないなら加担する心算も無い。少年への悪戯の真意など、私にも分からないから。
「それがさっぱり...」
至極尤もな疑問を口にする目暮警部へ、苦笑しながら返す毛利探偵。その様子をチラチラと見遣るも、白鳥警部補が気になって助言を出せないでいる少年。彼等を惘眺めつつ欠伸を零して暫く。
ポケットの中で携帯端末が震えた。
「.....」
服の上から触れば直ぐに止んだ振動は、仕事用にと使っている黒いスマートフォン。静かに視線を滑らせた先には、ソファセットから見て警部達を壁にした位置で立つ少年の手許が映る。昼間取り出していた端末を操作して直ぐにポケットへと仕舞った少年が、此方を一瞥して不機嫌そうに顎で警部達の方を指すから。
「例えば、こういうのはどうですか?...寒川さんがマリア・ロマノヴァの指輪を西野さんの部屋に隠した後、スコーピオンは指輪と録画データを求めて寒川さんを射殺。データはともかく、指輪が見当たらず部屋を荒らして逃走した、とか」
服越しに端末を触っていた手を持ち上げて人差し指を立て、ソファに座った儘警部達を見上げる。
彼が求めているだろう着地点に向かって助走をつけるのは、正直なところ面倒。だと言っても、探偵でも警察でも無い私が正面から推理染みた事をするのは違うから。少年がゴールテープを切れるように仕向けるのが私の仕事。
「バカかオメー!何で寒川さんが指輪を隠さなきゃならねーんだよ!」
しかし、今回の目標はこの探偵さんが1着でテープを越える事。
眉間に皺を寄せて此方へ数歩近付いた毛利探偵が腰を折り、凄む様に顔を迫らせる成人男性に若干仰け反りながら、普段の少年の苦労を改めて実感する。この男性は如何も察しが悪くていけない。
あと、近くて怖い。
「えっと...あー、西野さん!もしかして寒川さんと顔見知りだったりしませんか?」
「え...?」
「おいお前、探偵ごっこも良い加減にしろよ!」
やりたくてやってるんじゃない!と叫べれば良いのだけど。
普段会話する周りの人間が如何だけ頭脳明晰か、身をもって感じる羽目になるとは想定外。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年3月23日 21時