File.18-80 ページ41
ふう、と小さく息を吐いて。
「何だって!?」
「キッドが撃たれた時、割れた単眼鏡が海に落ちていくのが見えたんだ。スコーピオンはキッドを撃って...キッドが手に入れたエッグを横取りしようとしたんだよ!」
流石は世界中の男性を魅了した美人女優の息子、と言うべきか。ソファから下りて立ち上がった少年の、隣で澱み無く紡がれる虚言と事実を織り交ぜた其を聞きながら、一緒になって考える振りをしてみせる。夜に空から降ってくる単眼鏡のレンズが割れていたか如何かなんて分かる訳無いだろ、なんて鋭い事を言う者はいない。
その代わり、
「ちょっと待て、何でお前スコーピオンなんて知ってんだよ」
今回は一段と詰めの甘い少年に、毛利探偵が食って掛かる。
私からすれば不思議でも何でも無い上に、動き難くて可哀想に。位にしか思わないが、小学生が知っているだろう知識量を遥かに超えているのも事実。滅多な大人しか知らない様な事を助言してくる小学生など、恐ろしさすら感じて当然。そんな物知りを越えた物知りな少年は、腰を折って見遣ってくる毛利探偵へ「あ、いや...でもあれが、えっと、つまり...」なんて、先程までの自信と演技力は何処へやら、しどろもどろに手を振りながら視線を彷徨わせる始末。
私が教えたんです、と手を差し伸べようと口を開きかけた瞬間。
「阿笠博士から聞いた...」
低く、確りとした声は子ども相手に聞かせるとは思えない棘を含んだ音となって室内を静寂へと導き、少年の視線を一瞬にして奪っていく。
いつになく落ち着いているのか、元から白鳥任三郎という人間がこういう人物なのか私には分からないが、其冷静さと見透かした様な視線は明らかに小学生相手に相応しいものでは無い上に、なんと言うか。
「そうだよね、コナン君?」
「あ...うん、そう!」
怖い。
にやり、と表現するには若干の怒気を孕んでいそうな、不敵というより妖し気な笑みを浮かべる白鳥警部補は少年を見下ろしていた視線を目暮警部達の方へと戻してしまう。
その顔は、特に違和感も何も無い。
「.....白鳥刑事に嫌われてるの?」
というより、キッドに悪戯されてるだけかも知れないが。
冷や汗混じりに白鳥警部補を控え目に見遣る少年を手招いて、小さく耳打ちするが返るのは不思議そうに傾いた首と、怪訝そうに顰められた双眸。
如何やら心当たりは無いらしい。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年3月23日 21時