File.18-44 ページ5
小さく吐き出した息が滲ませるのは、どんな色だったか。
「私は、パリで菓子職人として働いていたんですが...」
然う言いながら自身の鞄を漁り始める夏美さんへ向けた儘の視線に、眼鏡が微かな音を鳴らしてくる。録画するのは全く構わないのだが、片や誰かさんは新幹線で一人のんびりと帰路に着きながらパソコンかタブレットで眺めているのかと思うと不公平だ。
「帰国して祖母の遺品を整理していましたら、曾祖父が書いたと思われる古い図面が出てきたんです」
夏美さんが言いながら取り出した古く茶色に変色した紙はテーブルに広げられるが、一枚の紙が斜めに破れているらしい其は二つの紙片となっている。右上と左下、に分かれている紙は真ん中が紛失しているが、二つの紙片にはエッグのデザイン図が描いてあることが見て取れる。
ただ、
「真ん中が破れてしまっているんですが...」
右上にあたる紙片に描かれているエッグの頭部のデザインは、メモリーズ・エッグとは若干違う。
しかし、左下の紙片の方には『MEMORIES』の記載があり、エッグの脚部だけが描かれているそのデザインは、確かにメモリーズ・エッグの其と同じ。
「確かにメモリーズ・エッグだ!」
「しかし、これには宝石が付いている...」
毛利探偵と鈴木会長の声を聞きながら、ソファから身を乗り出してテーブルに近付き、デザイン画を凝視めてみて。
「これ、別々のエッグだったりしませんか?」
近付いた図面から顔を上げて、テーブルを挟んで斜め前に座る夏美さんへ声を掛ける。まあ彼女に訊ねたところで答えは返って来ないが、彼女の「え?」なんて驚いた疑問符が室内に落ちた。
「この図面だと、頭と脚のサイズ感が合わない...ような気がして」
頭部分のデザイン図からエッグの輪郭をなぞるように指先を滑らせて、脚部分のデザインが施された紙片の方を通って一周させながら大きさの違いを説明してみて、ふと変わった雰囲気と視線に苦笑を添えて曖昧な言葉を付け足す。
世紀末の魔術師たる彼が仕込んだ絡繰の発見に思わず持ち上がった気分を、苦笑いで沈めつつ咳払いを落としておく。
「本来はもっと大きい紙にエッグが二つ描かれていたけど、破れてしまって端だけ残った...とかどうですか?」
「なるほど...」
へらりと笑いながら紙片を離し、二つのエッグが並んだ様なイメージで置いてみる。
もし本当に然うなら、二つで一つのエッグという事になるが。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年3月23日 21時