File.18-76 ページ37
私を挟んで警部達の反対側に位置する少年の貫く視線も、私が壁になっている所為で警部達の視界には入らない。
如何せ態と其処の場所で睨んでいるのだろう辺り、狡賢い。
そんな頭の良い少年を終始無視して辿り着いた西野さんの部屋は、高木巡査部長が西野さんに許可を取った上で扉を開けて室内を調べ始める。彼がひとつ一つ断りを入れながら室内の荷物を探る様子を眺めつつ、唯々立っているだけの他の面々の死角にあたる斜め後ろで内巻きの毛先をふわふわと触って時間を潰す。
少年も、私の隣から動く様子は無い。
数分が経っただろう頃、這い蹲ってベッドの下を覗き込んでいた高木巡査部長が何かを摘んで顔を上げ、その何かを見詰めた後。
「目暮警部!ありました、西野さんのベッドの下に!」
何か、こと指輪のペンダントを立ち上がりながら目暮警部の方へと差し向けて見せた。
「そんなバカな!?」
「決定的な証拠が出たようですな!」
全く身に覚えが無いのだろう、演技とは到底思えない驚き方をしている西野さんと、ボールペンに指輪と揃いも揃った証拠に職務を遂行しようとする目暮警部。
探偵という生きものは、証拠だとか論理だとか理屈だとか、何かと理由が必要な窮屈な職業だと思う。それは探偵よりも警察の方が顕著だと感じる事も多々あるが、私達の様な犯罪における芸術家はセンスと直感と瞬発力と想像力が何よりもものを言う。
何方が如何だ、というより何方もバランス良く混ざるのが理想。
「待って下さい警部さん!私じゃありません!」
「アンタが犯人でないなら、どうして指輪があったんだ!?」
彼に事件現場を連れ回されて感謝しているのは、彼の思考回路を理解する機会に恵まれていたこと。でも、見慣れた高校生探偵の思考を辿って推理を組み立てるのは疲れるから、
「ねえ、西野さんのベッド...何か雰囲気違わない?」
直感と想像を植えて、水を撒く。
「ねえ、西野さんって羽毛アレルギーなんじゃない?」
真実への芽を育てる為の推理は、彼に任せて。
隣の小さな名探偵へ屈んで、室内のベッドを指差して控え目に声を掛けた後。何かに気付いた様にベッドに駆け寄って枕を持ち上げてわさわさと触り出した少年の声は、疑問文でありながら確認の様な色を滲ませていた。
「え?そうだけど...」
「じゃあ、西野さんは犯人じゃないよ!」
然うはっきりと断言してみせた彼の声は、自信というより確信。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年3月23日 21時