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「あ、ああ...」
若干釈然としない様子で再び電話個室へと入っていく少年の背を見送り、イヤホンへと意識を向ける。と言ってもスコーピオンとかいう毒蠍の件を教えてもらうだけだろうから、この電話に強い意味があるとは思っていない。
『あ、もしもし博士?』
『分かったぞ新一!ICPOの犯罪情報にアクセスしたところ...年齢不詳、性別不明の怪盗が浮かんだ!』
そう思っていたのに。
『その名は...スコーピオン!』
さらりと流れる様に呼ばれた高校生探偵の名前に、付いた頬杖を其の儘に溜息を零した。
何の為に今まで私が気を遣ってきたのやら。
「あーあ...危機管理がなってないなぁ、博士」
最早唯の愚痴の様な勢いで零れた声は、何処かで相変わらず聞いているらしい誰かさんの鼓膜を擽ったようで、小さな笑い声だけが返ってくる。中々の一大事件の告白だったと思うが、笑って流せるとは適応力が尋常ではない。
魔女と、人間が縮むのは何方が珍しいか、と聞かれれば悩ましいところではあるのだけど。
その後も数遣り取り行って、更に二度程有名な高校生探偵の名前が飛び出したが、真逆盗聴されている等とは考えていないのだろう所為で滞り無く通話は終了する。そして十数秒後には廊下へと出て来た少年は、本当に何事も無かった様に此方へと歩み寄ってくるのだから溜息すら出ない。
「わりぃ、待たせた」
「.....ばぁか」
付いた頬杖を崩して立ち上がり、一言悪態を吐く。一体何に対して言われているのか等分かってはいないのだろう少年は、細く整った柳眉を顰めつつ「はぁ?」なんて不思議そうに声を響かせてくるが、私が此以上の何かを言う心算が無いと感じ取ったのか追求はしてこない。
「私は好きだけどね、そういうところ」
「何なんだよ、さっきから」
静まり返った電話室の廊下を抜けて二人で広間へと向かいながら、器用な癖に不器用で勘が良い癖に鈍感で、実は隙だらけで詰めの甘い少年を思って一人笑を零す。もし、同じ様な感性を咲かせた小さな魔法使いに出逢っていなければ彼の方に興味を持ったかも知れない。
其程には、面白いひと。
世の中広しとは言え、こうも私を楽しませてくれる人が近くにいるとなると案外世界は狭いのかも知れない、なんて。
「別に?君が意外と間抜けなとこ、変わってないなって」
「...オメーに言われたかねぇよ」
確かに、彼に色々と露見してしまった私も阿呆のようだ。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年3月23日 21時