File.18-73 ページ34
バタバタと隠す気の無い足音に、然も今気付いたかの様に欠伸を仕舞う。
「...どうしたの?走って来たりして」
きょとんとして見せて、周囲を見回す少年へ声を掛ける。自慢にもならないが嘘を吐くのは得意だ。まあ、純白の彼にはお見通しである事も多いのだけど。
「.....今、ここに誰かいなかったか?」
流石はホームズを越えそうなシャーロキアンというべきか、気配が乱れた彼の失態というべきか。
「えっと...それって私のこと?」
少しだけ考える素振りを見せつつ緩やかに頚を傾ける。隠す気等欠片も無く、勿論ここに居たのもいるのも私だ。嘘は吐いていないのだから問題は無いが、惚けているにも程がある程の阿呆さ加減に少年からは苦笑か呆れかが返ってくる。
「.....いや、何でもねぇわ...」
「何か、すごい失礼な事考えてない?」
半眼にと目を細めている少年へ腰を折って問い質すも、そろりと逸れた視線が返ってくる事は無い。まあ如何せ、役に立たないな。とか、察しが悪いな此奴。くらいのものだろうから構わないのだが。
「...ま、良いけど。それより蘭ちゃんから連れ戻して、って言われてるから帰ろうよ」
本当はそんな事言われてもいなければ聞いてもいないが、10分後にもう一度博士に電話をしなければならない事も知らない事になっている所為で、彼を促さなければならない。
まあ、
「いや、あと少ししたらまた電話掛けなきゃなんねーんだ」
断られる事は知っているのだけど。
「ふーん...じゃあ、それまで待ってる。一人で戻ったら蘭ちゃんに怒られるかも知れないし」
電話室前の廊下に設えられている一人掛けソファが向かい合う様に二脚。其処へ足を向けながら再び鼻歌を舞わせて腰を下ろせば、向かい側のソファへ小さな身体がダイブしてくる。こう言っては何だが、黙っていれば仕草は可愛いのが憎らしい。
「で?もう歩き回っても大丈夫なのかよ」
それなのに心の隙間を突いて来る言葉が、如何考えても小学生が言う様なものでは無い所為で可愛気は全く無いが。
「さあ?少しの事で響いてくるし走ると痛いし、飛べるかも怪しい...指先が無事なのが救いだけど。それより...、....あー、いや...」
「.....?」
こんな小学生に、そんな話は出来ないかと肘置きに頬杖を付く。少し考える様に指先で頬を叩いて、口許に笑みを咲かせ。
「そろそろ電話の時間じゃない?」
ちらりと電話室へと視線を投げた。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年3月23日 21時