File.18-71 ページ32
部屋を出て、廊下や階段を備えたホールを通り過ぎた先。
乗客は全員集められている所為で静寂に包まれており、擦れ違う乗組員すらいない。ひっそりと鼻歌を踊らせても誰も咎めはしないのだが、そんな事より電話室までが遠い。ひとつ吐き出した溜息を放り出して、ポケットに仕舞い込んでいた小型インカムを耳許に飾る。船内の無線電話に動きは未だ無い。
廊下を曲がった先の、奥まった場所。公衆電話の様な船舶無線電話が一列に並ぶエリアは、電話を掛ける専用のスペースとなっており、先程までより人の気配は無い。なんて事はなく、其処を覗き込むと同時に一番奥の電話個室の扉が閉まっていくのが見えた。
「ビンゴ...」
ぱたん、と閉まったドアを見送って壁に凭れ掛かる。
二度インカムを叩くのと同時に、何の前触れも無く隣に誰かが遣って来て視界に入ってくる。壁に身体を預けた誰かは水色のスーツを着ており、身長は成人男性の平均身長より恐らく高い。
「はじめまして...で、合ってますよね?白鳥任三郎警部補」
「ええ、以降お見知り置きを...高校生探偵の月城蛍さん?」
視線は電話室へ向けた儘開いた口から零れた声は、聞き慣れない特徴的な声によって掬われていく。それも、聞き慣れない枕詞の様な称号が張り付いている所為で、一体誰の事を言っているんだと無駄に頭を回す羽目になっているが、彼は屹度そんな事は考えていないだろう。
「せめて助手か協力者、くらいにしてもらえると嬉しいんですけど」
インカムから聞こえてきた『あ、博士?オレだけど』なんて相変わらずな少年の声と、更に電話越しだろう『おお、どうしたんじゃ?』という近所の発明家の返しを聞きつつ、無線電話の盗聴具合は上々だと我ながら評価しておく。
それにしても、だ。
「.....というか、何しに来たんですか?」
この警部補が態々ここに出て来た理由は何なんだか。
「勿論、護衛ですよ。蛍さんとコナン君が銃を持った犯人に襲われたら大変ですから」
この胡散臭い笑顔が態となのか、白鳥警部補がこういう笑い方をする人なのか。正直見分けは付かないが不愉快な笑顔である事に変わりはない。付け足した様に「蘭さんが心配してましたよ」と笑みを深めてくるが、実に腹立たしい顔だ。
「...、.....相手が撃鉄を起こすより早く、鼻先を撃ち抜く自信はあるのでお構いなく」
「.....オメーの方が怖ぇよ」
隣から小さく零れたのは、聞き慣れた好きな声。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年3月23日 21時