File.18-69 ページ30
然う言えば途中で抜けた高木巡査部長は、何処に行ったのやら。大方鑑識官からの追加情報が無いのか、現場にでも戻ったのかも知れない。
「でも、それがどうして寒川さんの部屋に？」
本当に然う思っているのだろう西野さんの口調に、純粋な疑問として警部達へ投げ返してくる視線は、余程虚偽が上手なのか事実分からないのか。私なら間違いなく前者だが、彼の場合は今迄の様子や人柄を見るに後者だろう。
「遺体を発見したのはあなたでしたな？」
が、そんな印象や雰囲気やらで話を進めるのは私達の様な犯罪者だけ。警察や探偵という生きものは常に証拠やら論理やらを重んじる。
「そうです！食事の支度が出来たんで呼びに行ったんです...」
「その時、中に入りましたか？」
まあ、普通は室内に踏み込む者などいない。扉を開けた瞬間に、大の字で血を流した人間が倒れていたのなら引き返すか腰を抜かすのが普通だ。西野さんも普通側の人間だったらしく、澱み無く「いいえ...」と首を振る。
屹度、はい。と言った方がボールペンの件を解決出来るというのに、素直というか正直というか。
「入ってないあなたのボールペンが、何故部屋の中に落ちてたんだ！？」
「分かりません...」
嘘を吐けば簡単なのに。なんて考えてしまうのは、私が嘘を撒き散らし慣れているからか。如何やら西野さんは本当に真面目らしい。
「では、7時半頃何をしていました？」
「えっと...7時10分頃、部屋でシャワーを浴びて...その後、ひと休みをしていました」
ふありと零れた欠伸を手で隠して、内巻きの毛先をふわふわと触る。そろそろ飽きてきたのだけど、この遣り取りは何時まで続くのやらと惘考えて、零れそうになる溜息を仕舞い込む。
さて、何か行動を起こすべきなのだろうか。
なんて考えていた時、
「なあ、オメーら襲った奴って...」
控え目に袖を引いてきた少年が耳打ちしてくる。
然う言えばさっきもそんな事聞いてきてたな、なんて思い出して、未だ答えてなかったなんて事実も過ぎる。情報提供を惜しまないと決めた以上、隠すような事でも無い。とは言え、此処で詳しく話せる様な事でも無いので如何したものか。
「ああ...あれは、」
なんて、耳打ちを返し始めた瞬間。
「目暮警部！」
広間へと走り込んで来た高木巡査部長の声によって、遮られた。
如何やら最近は世間とのタイミングが悪いらしい。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年3月23日 21時
