File.18-67 ページ28
乗客は少ないというのに、船は広い。
「おい...オメー、何怒ってんだよ」
他の面々が待機している広間へ向かう為、数m先を行く警部達の背を追って足を運んでいた時。真横の下方から聞こえて来た声に、足を止めずに視線を流す。前を行く刑事達や毛利探偵に聞こえない様に気を遣ったらしい声量に合わせて笑みを小さく零し、少年の間近にある右手をくるりと回して割れた単眼鏡を取り出してみせて。
「私が持ち帰った所為でこれを知ってるのは君だけだからね。同一犯だなんて考えてない人達の憶測や推測なんて、時間の無駄でしょ？」
そう、この少年が言い出さない限り、キッドを狙撃した人物と寒川さんを射殺した人間が同一人物だと言う見解に辿り着くのは難しい。そんな状態で、ああだこうだ足の浮いた話ばかりしていても仕方無い。
「私は君に、真実に辿り着いて欲しいだけ」
単眼鏡を縁を持って二度振り、ハートやティーポット、薔薇のデザインが施されたアンティーク調の金色のウォード錠へと変えて少年の目の前で手を離す。「うわ...っ」なんて小さく零しながら其を受け止めた少年の頭を乱雑に掻き乱し、
「扉の向こうを見せてよ。君の欲しい鍵は、私が探してくるから」
悪戯に笑って斜め下の少年を覗き見る。
最近見慣れた不機嫌そうな表情で「揃いも揃って気障なヤツ...」と零れた声は本当に呆れている様だが、明らかに断られる訳では無さそうなので聞き流しておく。
「つうか、大体見当付いてんじゃねーのかよ」
なんて、面白い事を言い出さなければ話は終わっていたのに。
「さあ...私から言えるのは、使ったのは32口径以下の小型拳銃かなぁ...って事くらい」
彼の疑問とも詰問とも付かない其に肩を竦めて、一瞬瞬きした後に「ああ...」と再び思案する様に顎へ手を当て始めた少年を余所に視線を前へ戻す。
人間の頭蓋骨は非常に硬い上に、球形を成している事もあって銃弾が貫通するにはそれなりの威力と弾丸の大きさが必要だ。鉛より硬い9×19mmの銀製の弾丸だとしても頭蓋内へ侵入した弾は、恐らく外に飛び出してくる事はない。そして、今回の場合入射位置は眼球であったにも関わらず後頭部から弾丸が逃げ出してはいなかった。
部屋の扉から遺体までの距離は数mと間近であったのに、だ。
「小口径の方が隠し持つには最適だから、か...それとも.....」
「か弱いレディかもね」
まあ、推測でものを言っても仕方無いのだけど。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 34人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年3月23日 21時
