File.18-66 ページ27
にこにこと貼り付けた笑顔は、
「ねえ、蛍姉ちゃん！寒川さんってどうして右眼を撃たれたのかなぁ？」
冷えて静寂を運んで来る空気感を変えようと、あどけなさを演出した少年の声に連れ去られて消え去った。
如何言うニュアンスの質問なんだと「はぁ？何言ってんだコイツ」なんて呟いた毛利探偵へ、右手で拳銃を模して彼へ突き付ける真似事をしてみせ、緩く首を傾げる。
「毛利さんが、こうやって銃口を向けられたら...。ああいや、元々刑事さんだった毛利さんは大丈夫でしょうが、一般人が銃を突き付けられたら...どうします？」
「どう、って...逃げるだろ普通」
相変わらず、此奴も何言ってんだ、という表情を向けてくる毛利探偵に訊ねた私が間違いだったらしい。
漸く少年の苦労が理解出来た気分だが、呆れていても話は進まない。
「そうですね、逃げる...若しくは叫び声を上げるのが通常の反応かと思われますが、寒川さんは正面から被弾している上に悲鳴を聞いた人もいないんです。.....つまり、どうして右眼を撃たれたんだと思う？コナン君」
人へ向けた指先を仕舞って、斜め下の少年へ視線を移す。私ばかりに話が降り注ぐのは癪に障る、というより実に不公平。自分の言いたい事を人に言わせようとしてくるこの小学一年生に、負けてばかりはいられない。
笑顔で更に首を傾げ、若干足を引いて口端を引き攣らせた少年へ「分かるよねー？」と重ねれば小さな喉から声が漏れた。
「た、多分びっくりしたんじゃないかなぁ...。知ってる人だった、とか...み、見たことある人だった、とか.....」
「なるほど！その意見にさんせー！...、.....ということで改めて、皆さんの話を伺いに行きましょうか。寒川さんを驚かせて、真正面から射殺した人が紛れてるかも知れないので」
何時までも人が仰向け大の字で血を流している部屋に滞在する理由も無い。
ぱんっと手を叩いて目暮警部へ笑顔を晒し、明らかに戸惑い気味に「あ、ああ...」と頷く警部が踵を返して室内を後にする背を見遣って、彼に着いて廊下へ出て足を進める他の面々を見送りながら部屋の扉を閉める。
鑑識官の皆様には引き続きお仕事を頼むとして、東京に到着する迄遺体は船舶用霊安室にでも運ばれるのだろう。
船に乗らなければ良かったのか、指輪を見せびらかさなければ良かったのか、将亦別の理由があるのか。状況からして彼が殺されたのは成り行きに見えるのだから居た堪れない。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年3月23日 21時
