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File.18-65 ページ26

背後で強盗殺人だと力説する毛利探偵に、小さく吐き出した溜息は少年にしか聞こえず。軽く肘で小突けば僅かに睨む様な視線が返ってくるが、それを無視して立ち上がる。



「指輪を盗るだけなら、首から外せば良いでしょ?」



子どもらしく高い声を上げる少年を一瞥しつつ、羽毛の散る寝具へ近付いて床に膝を着く。



「でも、部屋を荒らした上に枕まで切り裂いてるのはおかしいよ!」



ベッドの下を覗き込んでみたが、目星いのもは特に無い。マットレスと木製ベッドフレームの間も気になるが、この重そうなマットレスを上げられる様な健康体では無いので諦めておく。



「お前ら、またチョロチョロと...!」



折角話を振ったのに、推理を否定されたからか、またしても不機嫌の矛先が此方を向いたらしい。毛利探偵が此方側へ怒声を飛ばせば、少年は顔を引き攣らせ、私はベッドから顔を上げて隣を通り過ぎて警部達の方へと近付いていく鑑識官の背を見遣る。



「目暮警部!床にこれが!」



「ん...?」



これ、が何かは残念ながら見えないが、警部がそれを受け取ったらしいところから見て小さいものなのだろう。立ち上がって警部達へと近付き、人の間から覗き見る。紺色の高級感のある細長い其は、ボールペンか万年筆か。



「ボールペンか...。ん?.....M.NISHINO...」



その筆記用具に彫って刻まれていたらしい名前を警部が読み上げ、場が静まる。というのも、見た目で判断するのは良くないが、彼が射殺した挙句室内を荒らす様な人物には見えない上に、名前の入ったボールペンを態とかのように落として行くものだろうか。



「西野と言えば、鈴木会長の秘書!奴が指輪欲しさに寒川さんを...」



「確か、第一発見者でしたよね。先ずは、発見時に部屋へ入ったか聞いてみた方が良いかと」



容疑者が見付かって嬉しいのか、直ぐに犯人だと決め付け始める毛利探偵へ笑顔を貼り付けながら首を傾げて「うるせぇ!ガキは黙ってろ!」なんて相変わらずな怒声を投げ付けてくる彼へ、軽くも態とらしく肩を竦めてみせる。



彼の見当違いな推理に割く時間など無いのに。



「ここは暗闇が溶けた海原の上...翼の無い人間は鉄の箱から飛び立つ事なんて出来ないんですから、皆さんの話に耳を傾けては如何ですか?」



変わらぬ柔らかい笑みを深めて「クソガキの戯言ですけど」と添えれば、警部達含めた室内の空気がすっと冷えた。



溜息を吐いたのは、足元の小学一年生。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年3月23日 21時

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