File.18-64 ページ25
隣に位置する扉を開けて、中の惨状を再び確認する。
丸テーブルは倒れ、引き出しを目一杯開けられた化粧台は卓上も引き出しの中も散乱して、ベッドのシーツは勿論乱れて羽毛枕が切り刻まれている所為で白い羽根が散らかっている。
「被害者は、メモリーズ・エッグの取材のためにいらっしゃったフリーの映像作家の寒川竜さんです」
そんな室内の真ん中に大の字で横たわる男性の素性を簡潔に伝えつつ、部屋へと足を踏み入れる。足元の間隙を縫って少年が室内へと入って行ったが、それを気にする者はいない。
「ふむ...右眼に一発か」
一度室内を見渡した後、直ぐに遺体の分析を始めた目暮警部は流石というか。警部の後方で、うわぁ、なんて顔をするのは高木巡査部長。人間らしい表情を見せる辺り、出世云々は扨置き高木巡査部長はいい人、なのだろう。
そんな刑事の分析より、素人の介入に対して咋に機嫌の悪い毛利探偵のフォローをしなければ、そろそろ拳が飛んでくるかも知れない。
「気になる事と言えば、室内の惨状と...彼が首から提げていた指輪が見当たらないこと位ですかね」
遺体の傍に屈んでいる警部へ声を掛けて、背後の毛利探偵へと「でしたよね?」と玉を投げた。相変わらず放置されている少年の動向に毛利探偵の気が向くより早く、向けた疑問符を受け取った彼が「そうです警部殿!」と玉を打ち返してくる。
「これは強盗殺人で、犯人が奪ったのは指輪です!」
「指輪...?」
毛利探偵の意識と目暮警部の興味が重なったのを良い事に、そんなに広くもない室内へ目を向けつつ散乱した数々の荷物を踏まない様に気を付けて、適当に室内を物色する。
「ニコライ二世の三女、マリアの指輪で...寒川さんはペンダントにして首から下げてました!」
テレビは傷一つなく無事で、ソファも目立った損傷はない。
「どう思う?」
「ああ...おめぇがさっき言った様に、指輪を探してたか...別に目当ての物があったかだろうが...。それにしても枕の中まで探すか?」
少年の隣に屈んで訊ねれば、想定通りの返答がくる。人を殺す様な人間の思考回路は残念ながら分からないが、ものを隠せそうな場所を片っ端から捜索したのだろう。それこそ手当り次第に。
「どうしても欲しかったんだろうけど...この泥棒、センスも美学も計画性も無いよね」
「オメーらに並ぶ奴なんざいねぇよ」
一応、褒め言葉として受け取っておこう。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年3月23日 21時