File.18-60 ページ21
𓂃 𓈒𓏸*⋆ஐ
すっかり夕刻を過ぎた頃。
各々解散して静寂を取り戻した甲板は、涼しい夏風に潮の香りを乗せて肌を撫でてくる。暗闇へと様変わりした其処で鼻歌を漂わせても気に止める者はいない。
『なあA、船の無線電話頼めっか？』
「もう済んでる。今のところ誰も使ってないけど」
東京にいるだろう彼を除いて。
船に乗り込んだ時から、乗組員の無線は勿論のこと乗客用にと設置されている公衆電話式の無線電話は盗聴中。彼に共有させていないのは本当に必要性が無いからだが、頼まれるのなら仕方無い。そろそろ夕食で呼ばれるかも知れない序でに、部屋に置いて来たパソコンまで戻るかと腰を上げて船内へと足を向けつつ、然う言えばと優秀な人工知能の名を呼んだ。
「バーネット、航行中当船の無線を快斗にも流しておいて」
小さく並べた声に、軽い電子音を返事にして反応が戻ってくる。
有能にも程がある所為で、パソコン不精にもなりそうだと思いながら階段を上がって客室が並んだ廊下へ出た時。
「毛利さん！毛利さんいますか！？」
此方も珍しく声を荒げる、というより必死に叫びながら毛利探偵の部屋の扉を叩く西野さんの姿が、廊下の数m先に映った。その様子に、何事だと隣の部屋から蘭ちゃんと少年が姿を見せている場面に遭遇したお陰で、無視して部屋に入る機会を失う。
鬼気迫る様子の会長秘書にも、
「やっとメシっすか？」
なんて言いながら部屋の扉を開けた毛利探偵は流石と言うべきか。
普通なら、何言ってるんですか！違いますよ！なんて入りそうだが、優しく真面目そうな西野さんは然んな事は言わないらしい。
その代わり、にしては一大事だが、
「寒川さんが部屋で死んでます！」
「なにぃ！？」
とんでも無い事実を豪速球で投げ付けてくる。
西野さんのそんなストレートボールに反応して、毛利探偵と少年を筆頭に西野さんと蘭ちゃんも寒川さんの部屋へと向かって走って行く。が、私も行った方が良いのだろうか。数十分だか数時間だか前に、死ぬんだろうななんて失礼な予想を付けていただけに意外性も何も無いのだが。
「予想通り捜査一課でお願いしまぁす」
『ったく...あのボウズ、疫病神か何かじゃねえの？』
インカム越しのそんな声に笑いながら、一応彼等を追って寒川さんの部屋へと向かってみる。
多分、日本警察の死神だよ。
なんて事は言えない。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 34人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年3月23日 21時
