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File.18-59 ページ20

勿論泣き真似をする心算は無く、緩く笑みを添えながら相変わらず睨み上げてくる少年を見遣って。



「寒川さん、そのペンダント...!」



隣のテーブルから上がった声に、ふと其方へ視線を流す。



毛利探偵に鈴木会長、カメラマンに夏美さんと研究家を加えたテーブルで口を開いたのは研究家の女性。彼女の視線の先は、カメラマンの寒川さんが首から提げている指輪をチェーンに通したタイプのペンダント。全く気にしていなかったが、然う言えばあんなもの着けていただろうか、なんて記憶を手繰り寄せている内に会話は進んでいく。



「流石ロマノフ王朝研究家、よく気付いたな...見るかい?」



カメラマンが首からペンダントを外したタイミングで、掛けている眼鏡の智部分にある小さな釦で拡大をかけてみる。女性物のアンティーク調の指輪は控え目にピンク色の宝石が取り付けられており、内周には何かが刻まれているが、カメラマンの彼から研究家の手へと移った事で視界から消えてしまう。



大方、見せびらかす為に着けて来たのだろう。となるとロマノフ王朝に関係する何かだと考えるべきだろうが、エッグを狙う者たちとキッドを狙撃してきた誰かが潜んでいるかも知れない状況で、そんな代物を晒すとは命知らず甚だしい。



「マリア!...まさかこれは、ニコライ二世の三女、マリアの指輪?」



「アンタがそう言うんなら、そーなんだろ?」



ニコライ二世の三女、マリア。



マリア・ニコラエヴナ・ロマノヴァというロシア皇帝ニコライ二世とアレクサンドラ皇后の第三皇女として生を受けたが、ロシア革命に際して一家全員と共に幽閉された後、1918年に銃殺された。とされている大公女。然し彼女の遺骨は発見されておらず、革命の際に亡くなっているのかも不明。



そして、1910年には知り合った男性に熱烈な片想いをしていた、とされている。それこそが、可能性として推測される秘めたる血筋の話に繋がる訳だが、今は良い。



「それをどこで!?」



普段から落ち着いた雰囲気を漂わせる研究家の彼女が珍しく声を荒げて指輪の出処を問い質すが、返却されたペンダントを首へ戻したカメラマンは意味有り気に「ふ...」と鼻で笑って席を立ってしまう。そのまま甲板を後にして去って行く彼の背を見送りつつ、デッキの上や柱の影、扉の近くで静かに彼へ鋭い視線を投げ付ける人影達を見遣り溜息を吐く。



耳元のインカムから聞こえたのは『こりゃ捜査一課だな』なんて声。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年3月23日 21時

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