File.18-57 ページ18
丸いテーブルに五脚の椅子が備え付けられたテーブルセット。私が使う其の隣に当たるテーブルへ腰を掛けて、西野さんが置いたビールを開栓していく成人男性を横目に海へ視線を投げて時間を潰す。
毛利探偵と鈴木会長は兎も角、そこに寒川さんという不思議な組み合わせが気になるが、話の内容は本当に興味を唆られない上に有益性は欠片も無い。西野さんは会長に着いてビールを持って来ただけなのか、彼等の輪に加わる事無く端に立っているだけ。
次第に傾いていく陽を眺めて、穏やか過ぎる時間へ不思議な感覚を抱く。
昨日が本当に昨日だったのか、忙しない上にとんでも無い時間を過ごしたのは現実だったのか、穏やかな波の音と傾いた陽射しも相俟って夢だった気さえしてくる。昨日が夢か、今日が夢なのか、なんて無駄な事を考えても何方も現実だと分かりきっているのに。
「新しいコーヒーをお持ちしますね」
ぼんやりと座って、今の手持ちの本はあったかと考えていれば、近寄ってきた西野さんが、テーブルに置き去りにされていた皿とマグカップをトレイに乗せながら優し気な笑顔を向けてくる。
なるほど、鈴木財閥の秘書なだけあって気が利く方らしい。
「あ、じゃあミルクティー頂けますか?」
折角の好意を無駄にするのは失礼だが、ケーキもないのにコーヒーは飲めない。そもそも甘いものが好きで、欲を言えばケーキでもココアかカフェオレ位が丁度良いのだから、ケーキの甘さでコーヒーを頑張っただけなのだ。
そんな甘党の悩み等知らない西野さんは、変わらぬ笑顔で了承してテーブルの上の食器類を綺麗に攫って行く。私の方は序なのか、空のビール瓶を持って船内へと消えて行く西野さんに若干申し訳無い気もするが、此処はお任せしてポケットから文庫本を取り出して文字を追う。
成人男性達の無駄話より、イヤホン越しの生活音の方が何倍も落ち着くが、私以外そんな事知らず時間だけが流れていく。
鈴木会長が居るなら何か面白い話がくるか、なんて思っていたが、特に何事も無く。聞き耳を立てながら、捲る頁だけが重なっていく。西野さんが持って来てくれたミルクティーは勿論美味しいが、甘さが足りないと思ってしまうのは仕方無い。
そろそろ飽きてきたな、と思っていた頃。
「おお!夏美さんと青蘭さん!」
「あなた方も一緒にどうです?」
喜市氏の曾孫と研究家。
それと、少年という不思議な組み合わせが甲板へとやって来た。
.
34人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年3月23日 21時