File.18-54 ページ15
𓂃 𓈒𓏸*⋆ஐ
甘くてクリームが沢山乗ったケーキなら、何でも良かったのに。
ショートケーキは勿論、チョコレートケーキにフルーツロールケーキ、フルーツタルト、チーズケーキにレアチーズタルト。どれにしますか、なんて聞かれるとは思っていなかった。流石は鈴木財閥であり、充実し過ぎているケーキのラインナップに若干申し訳無い気持ちにもなる。
とは言え断る心算も無く、タルトの2種類とコーヒーを貰って甲板に広げられたテーブルセットの1組を占領して座る。
「それで...そのケーキの延べ棒、何色が一番美味しいの?」
特に会話をする訳でも無く数時間互いの環境音を流し続けたイヤホンへ久方振りに声を掛ければ、最寄りの駅を降りたところらしい快斗が『そーだな...』なんて口を開いてくれる。生憎私は普通のチョコレートケーキしか食べた事が無い所為で、黒と白の延べ棒に関しては無知だ。
『やっぱ王道のチョコケーキが...。つうか、食べ比べりゃ良いじゃねえか。一緒に食おうと思って買ったんだからよ』
「わぁい、優し過ぎて泣いちゃいそー」
潮風に吹かれつつタルトを頬張って、誰も居ない甲板で昼日中の陽射しを浴びると言う優雅な夏休み。なんて呑気なものでも無く、気侭な帰路を選んだ彼に募った不満を棒読みでぶつけるが、イヤホン越しの彼は軽く苦笑を零しながら『んな怒んなって』と軽い言葉を返してくるばかり。
『荷物置いたら、横須賀のノイシュバンシュタイン城まで行ってやっからさ』
「...行ってやる、って.....これそっちの仕事でしょ?私の狙いは卵じゃないんだから」
キッドの獲物はあくまでファベルジェの卵で、私の仕事はスコーピオンとかいう強盗犯を、あの少年が捕まえること。だからこそ、この船に乗る前に、私に変装でもしてもらって彼に乗って貰おうと思ったのに。少年が噛み付いてくるとボロが出るかも知れないから、と全力で断られたのが恨めしい。
その実、面倒だからなんて理由だったのかも知れない。
そんな不機嫌を知ってか知らずか、街を行きながら『まあまあ...』だなんて適当に往なしてくる彼に機嫌を傾けても仕方無いかと、諦める。今から海の上まで来て代われ、なんて言う訳にもいかない。
「お詫び、楽しみにしてるね...私のブルーダイヤさん」
『.....精一杯心を尽くしますよ、私だけのパープルダイヤ様』
溜息を吐きながら言われても嬉しいとは、私も愈々毒されている。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年3月23日 21時