File.18-53 ページ14
ただ、狙っただけで当たっているかは分からない。
だから銃創なんてものに期待するだけ無駄だ。狙いが逸れて頭部に穴を開けていたのだとしても構わない、なんて思って引いた引鉄だった上に、今改めて考えても撃ち殺してしまっていても後悔していない自信はある。
「普通に考えて、スコープ越しに相手の銃口がこっち向いてる中、悠長に構えて狙い付けてくる人間なんていないから...避けたか逃げたかだろうけど」
「もしくはオメーの腕が悪いか、だな」
もう一層開き直った様に嫌味たらしく鼻で嗤う、なんて大人でも滅多に見せない表情を晒してくる小さい幼馴染に苦笑いを返しつつ、テーブルに立つ銀色の筒を摘み上げて少年へと投げて寄越す。危な気無く其を受け止めた彼の不思議そうな表情を一瞥しながらティーカップを傾け、一息吐きながら「それ、意外と御守りになるから」なんて迷信か都市伝説か、又聞きした其を零してみる。
私、というより過保護な私の保護者達のお陰かも知れないけれど。
鈴木財閥が用意しただけあって美味しいお茶に美味しいお菓子だが、早速東京へ舞い戻った誰かさんが駅でケーキを購入しているらしい店員との遣り取りがイヤホン越しに聞こえてくる所為で機嫌が傾く。
「...、.....ここ、ケーキとかあるかな?」
「...は?」
突然そんな事を言いながら立ち上がった私を、奇異の目で見てくる少年は当然の反応だ。然し、あの有名なチョコレートケーキとブラックチョコレートケーキとチーズケーキを迷い無く指名して購入していくあの男は、帰宅して早々に自慢しながら食事レポートを繰り広げてくるに違いない。あの四角い特徴的な形の美味しいケーキを、とは言わないが此方もロシアケーキなんかで満足はしていられない。
「ちょっと食堂覗いて聞いてくる。...あ、帰るならカップとかそのままにしてて。漁るなら好きにして良いけど、バッグの中着替えとか入ってるから下着泥棒しないでよ」
「ばっ...、.....誰がおめぇの下着なんか盗むかよ!」
「...ふぅん、蘭ちゃんのなら気になるんだ?」
スマートフォンだけを持って部屋の扉に手を掛けながら、そうだと振り返って至極真面目に釘を刺せば、一瞬たじろいだ後に半ば叫ぶ様な声が返ってくる。が、其れに悪戯な笑みを添えながらいつも通り、と言える悪巫山戯を投げ付けて、ぎゃーぎゃーと何やら叫ぶ少年を残して廊下へ出た。
気になるも何も、同棲中だと言うのに初な二人だ。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年3月23日 21時