File.18-51 ページ12
「父さんの犯罪ファイルに載ってたんだよ」
「犯罪、ファイルねぇ...」
何てものをファイリングしているんだか。相変わらずあの有名な推理小説家は、素晴らしい頭脳で面白い事をなさっているらしい。
特に怪しむでも無くコーヒーに口を付けた少年が「おめぇ隠す気ねーだろ」なんて心外な事を言ってくるが、そもそも今の今まで発砲した事すら忘れていたので反論する言葉も無い。
「仕方ないでしょ?私が唯一大切にしてる、この世にたったひとつの宝石に手垢付けられたんだもん。撃ち殺さなかっただけ褒めて欲しいんだけど」
「.....ほんっと趣味悪ぃよな」
失礼過ぎて笑うしかない。
乾いた笑い声を紅茶に吸わせながら、愈々捕まえる気等無いのではないかと思わせてくる少年の此出方に関して考えてみて、咋に何かを求めてきている様子では無い事に余計頭を悩ませる。黙っててやるから代わりに、なんて交換条件とも言える取り引きが一般的だが、そんなものを提示されていない事が恐ろしい。
本当に脅迫に使う心算が無いのか、それとも察しろという合図か。
半分程減らした紅茶をソーサーに置いて一息。
「この前のスマホ、まだ持ってる?」
取り敢えず、この少年が何を求めているのかが分からないので最大限に譲歩しておく。唐突な質問へ「あ、ああ...?」なんて戸惑った様な声を上げる少年がポケットから取り出したのは、雪山のロッジで活躍した白いスマートフォン。捨てずに持っていた上に、持ち歩いているとは驚いた。
取り出された其を確認して、仕事用の黒いスマートフォンを袖口から滑らせて手早く11桁の番号を押す。
一拍置いて着信を告げた少年の端末が音を奏でた直後、通話を切る。
「私...というか『私』に用件があるならいつでもどうぞ」
手にした黒いスマートフォンを振りがら少年へ笑みを浮かべてみせれば、毒気を抜かれた様な「...は?」なんて声が返ってきた。子どもがする様な表情では無いが、普段と比較するまでも無く間の抜けた顔は珍しいので面白い。
「君が追い求めるのは真実であって、正義じゃない。多少は後ろめたい事もあるだろうし、こういう人間が手駒にいた方が頼りになるでしょ?」
真実とは何か、なんて答えは出せるけど。
正義とは何なんだか、私には分からない。
だからこそ、私は真実だけを渇望する彼が嫌いでは無いし、協力しても良いと思ってる。のかも知れない。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年3月23日 21時