File.18-50 ページ11
室内の左隅にL字型に備え付けられているソファへ腰を下ろす少年を横目に、コーヒーとストレートティーを淹れる。
船内は涼しい事もあってホットでも然して問題は無い。
トレイにマグかにティーカップ、皿に粧ったロシアケーキを乗せて持ち上げるより僅かに早く。室内のテーブルに何かが投げられた様な、軽い金属の音が鳴った。
長さ19mm、直径9mm程の筒らしい音。
コロコロと転がる音が僅かに聞こえる中、トレイを手に少年の斜め前に位置する座面へ腰を下ろす。テーブルにトレイを置けば、其処を転がっていた銀色の空薬莢がトレイに当たって涼し気な音を立てた。
「忘れもんだぜ、白うさぎ」
「.....警察に渡してれば面白い事になったかも知れないのに」
コーヒーを少年へ差し出して、ストレートティーを啜る。中央に置いたロシアケーキに手を伸ばす前に銀色の薬莢が転がらない様に立てて、イチゴジャムが乗ったロシアケーキを一口齧った。
鈍くも美しく日光を反射させてくる薬莢は、昨夜のものなのだろう。
結局、この先に付いていた弾体は何処に行ったのやら。
「...秘密の共犯だ、つったのはオメーだろうが」
不機嫌そうに、不貞腐れた様な。そんな表情で此方を睨み上げてくる少年へ、矢張りお人好しだななんていう感想を抱きながら食べ掛けのロシアケーキを更に一口頬張った。ケーキという名の癖にクッキーの様な其を咀嚼して、ストレートティーを傾ける。
「でも、それって昨日邪魔してきた誰かさんのかもよ？」
私のとは限らないでしょ、なんて言いかけた声は、
「バーロ...んな弾使う物好きが何人もいて堪っかよ」
至極当然、と吐き出された溜息によって遮られた。
テーブルに佇むのは銀色、では無く正真正銘銀で作られた薬莢。銀の弾丸に銀の薬莢、なんて比重効率を求めただけで無駄に高価な代物を使う人間は、私も私意外には知らない。というより此は私が好きで使っている訳では無いので、私の所為では無い。
「ふぅん...流石は物知りな名探偵くん」
キャロル･ノーツは拳銃を所持していないし、勿論そんな物騒なものは使わない。怪盗キッドという紳士も当然、そんな血腥い代物は扱わない。そんなものがあの現場に残されていたのなら、不思議にも思うだろう。
銀の空薬莢から、とある女に辿り着いたのなら。
アリスと女王が同一人物だと知った後なら尚更。
女も同じだと推察するのは簡単。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年3月23日 21時
