File.11-9 ページ9
相変わらず雨が降っている。
「新一...取り敢えず、知ってる阿笠博士の話すれば?」
何故彼等が雨すら気にせず外に立ち続けているのか分からないが、一悶着始まった以上解決する迄は動かないだろう。ずぶ濡れの儘「そうすれば信じて貰えるかもよ」と付け足しながら目線が低過ぎる少年の頭を撫でる。有効かは分からない提案に「た、確かに...」と呟いた少年は、訝し気に立つ博士に向き直る。
「阿笠博士52歳!オレん家に住んでいる風変わりな発明家で、自分じゃ天才と言ってるけど作ったものはガラクタばかり!おまけに、お尻の黒子から毛が一本出てる!」
名前から年齢、は良いとしてお尻の黒子の話は大声で言って良かったのだろうか。「お、おしりの...それは新一しか知らないはず...」なんて博士が呟いている以上、私が聞いて良かったのかも怪しい。まあ知ったから何なんだ、という内容ではあるが。
「へんな薬飲まされて、小さくされちまったんだよ!」
「く、薬で小さく...?」
何故この二人の遣り取りを見させられてるんだか。
「フン!そんな薬があればお目に掛かりたいわ!来い、怪しい小僧め!警察に突き出してやる!」
もう帰りたい。なんて本音が飛び出しそうになる中、博士が掴んだ少年の腕を見遣り、反対側の彼の手を掴む。博士と私に両腕を取られて止まる少年の脚と、振り返る丸い双眸。最早気怠そうに壁に凭れて雨に濡れ続ける女子高生の眸は、屹度普段と違う色を滲ませていそうだけど。
「新一、その頭使ってみせれば?...例えば、博士が何処で晩ご飯食べてたか、とか」
兎に角、阿笠博士が少年を工藤新一だと信じてくれれば私は帰れる。その為には私が説得するより、彼が自分で証明する方が早い。助け舟、というより自分の為に出した提案に「そ、そうか...!」と納得してくれたらしい少年は、改めて博士へと顔を向ける。
「博士!貴方はさっきレストラン『コロンボ』から帰って来ましたね!それも、かなり急いで!」
「ど、どうしてそれを!?」
頭が痛い、より耳鳴りの方が気になる。
「博士の服ですよ...。前の方は濡れた跡があるけど、後ろはそれが無い!雨の中、走って帰って来た証拠ですよ!それに、ズボンに泥が跳ねてる...。この付近で泥が跳ねる道路は、工事中の『コロンボ』の前だけだ!」
ただの少年がこんなにスラスラと話していれば怖いにも程があるが、実は高校生だと信じさせるには効果的。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時