File.11-7 ページ7
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走りながら雨のなか、黒髪から薄い茶色のボブへウィッグを替える。眼鏡を外して翡翠の眸を入れ込んで仕上げるが、服装は残念ながら予備は無い。
「うっわ、え...?」
雨も降っている事だし、顔面が素顔で良かったなんて考えながら曲がった先。言われていた橋の上に、小さな人影。明らかにサイズの合っていない服を着た、小学生位の少年。袖と裾がこれでもかと言う程に捲られた其服は、同級生の高校生探偵が着ているのを見た事がある。
「あ、蛍...」
場所を伝えた以上移動しない方が良いと考えてか、雨に満遍なく濡れている少年は振り返り、小さく名前を呼んでくる。
頭に包帯を巻いた少年は、正しく濡れ鼠。
彼の目の前に膝を着いて屈み、濡れた前髪を避けて顔を凝視める。大きな碧の双眸に、白い頬。濡れていなければサラサラと揺れるだろう黒髪は、初対面の頃の工藤新一と大差無い。
「なに、若返り願望でもあったの...?」
頬をペタペタと触りながら首を傾げてみせれば「んな訳ねぇだろ!」と元気な怒声が返ってくる。なるほど、少し心配したが相変わらず強靭な精神力の持ち主らしく悲嘆に暮れて泣き叫ぶ訳では無いようだ。
「じゃあ好奇心の代償だね」
降り始めた雨を互いに気にしないのは構わないが、身体が小さい以上長時間雨に晒されていれば体調を崩すかも知れない。目の前で不機嫌全開で頬を膨らませる少年を抱き上げれば、濡れた服の重みが一緒に腕に掛かってくる。
「ちょ、おい!降ろせって!」
「なぁに、新ちゃん助けて欲しいんじゃなかったの?私は別に今直ぐ帰っても良いんだけど」
見た目は少年でも中身は高校生。同級生の女子に抱えられるのは屈辱的なのか、バタバタと暴れ始める新一へ悪戯に笑みを浮かべれば、直ぐに大人しく静かになる。一応状況は分かっているらしい。
「取り敢えず新ちゃんの家で良い?」
「.....おう」
渋々と返る声は小さいが、気落ちしているのか今後を思ってか、それとも抱えられているのが嫌なのか。彼が一体何を考えているのかは分からないが、一方の私と言えば、工藤新一が居ないという面白味の無さを思って少し残念だったり。
しかしまあ、彼の事だから少年になろうが事件が起きれば走り出すのだろう。
彼は、そういう人間だ。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時