File.13-16 ページ44
白地に金色の模様と、何やら日本語では無い文字が数行。
この距離からでは見えないが、予告状というより手紙かメッセージに近い様に見える其に益々疑問が増える。
「私達が日本に居るんですから、彼女が一緒でも不思議は無いでしょう？」
相変わらず優雅な笑みを携える女は「キッドか彼女かばかりで私には欠片の興味も無いんですね」なんて態とらしく悲しげな声を謳わせて、間髪入れず取り出した銃を警部へ向けて撃ち出し、飛び出した一枚のトランプが示されていたカードを捉えて警部の手から攫った直後塔屋の壁に突き刺さる。
瞬間、騒めきに支配された警察の視線がトランプに磔にされたカードへと奪われ、生じた動揺に乗じて男が何の合図も無く女を軽々しく抱え上げた。されるが儘に浮いた身体に驚く事無く首許へ腕を回した女は、ぱたぱたと脚を揺らして頬を膨らませている。
「中森警部、あまり麗しの姫君を虐めないで頂きたい。機嫌を損ねた彼女を宥めるのは...少々骨が折れますので」
特段怒った様でも無い口調で咎めながら「それに...」と付け加える様に肩を竦めて、
「今夜は、あなた方の出方を伺う唯の下見...盗るつもりは有りませんからね」
などと、訳の分からない事を言い出した。
じゃあ何しに来たんだと思わせる様な声に「なにぃ！？」と至極真面な返しをした中森警部に対しても崩す気の無い余裕を晒しつつ、そんな反応を楽しむ様に男の笑みが濃くなる。
「おや？ちゃんと予告状の冒頭に記した筈ですよ...」
ふと途切れた言葉の後を追う様に、
「April foolってね」
純白のマントがハンググライダーへと様変わりした。
「や、奴を飛ばすな！かかれ！」
直ぐ様声を上げて走り出した警部に続いて駆け出す警官達が数歩を踏み出した直後。抱えられた儘の女が、肩から落ちていたカーディガンを羽織り直す様に襟を寄せたと同時に、その上着の内側から幾つかの黄色いピンポン玉の様なものが転がり落ちた。
瞬間、弾ける閃光に視界が奪われ、警官の脚が止まる。
そんな中で「よぉボウズ...知ってるか？」等と変わらぬ口調を持って掛けられた声。
「怪盗は鮮やかに獲物を盗み出す創造的な芸術家だが...探偵はその跡を見て難癖付ける、唯の批評家に過ぎねぇんだぜ？」
「なに！？」
不敵な笑みと挑戦的な視線。
小学生相手には有り得ないような煽り文句と共に、煙幕と二枚の予告状だけを残して忽然と姿を消した。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年2月21日 3時
