File.13-15 ページ43
真っ直ぐに向いたマズルを受けても変わらない余裕を見ても尚、刑事達が狼狽える事は無い。
「フン...何を言う、ワシが貴様らの予告状を解いて、ここを張っていたのを知っていた癖に。ここから飛び立つと踏んで、ホテル内の人間を全て調べ玄関口を固めていたが...まさか東都タワーから迂回して降り立つとは思ってもみなかったよ」
言い方や口調からして、この刑事と彼等はそれなりに長い関係なのかも知れない。中森警部、と呼ばれた事と彼等が怪盗なんて存在である事からして、警視庁捜査二課知能犯捜査係の警部なのだろう。彼等が上手で逃げられ続けているのか、この警部が逮捕し損ね続けているのかは、考えないでおく。
それにしても、だ。
警部が向けている銃口が如何やら男へ向いている訳では無いらしい、と気付いたのは、女がマントの合間から顔を出して男越しに警察の方へ視線を向けた時。
男を狙うにしてはやや下方を向いていたマズルが、女が顔を覗かせた事で明らかに右へ擦れて真っ直ぐに女の鼻先を捉えた。
「警部、今夜は随分殺気立っていらっしゃいますね」
不意に、君に撃ち殺されるなら、と笑った女を思い出して複雑な心情になる。世界各地で犯行に及んでいるらしい彼女はこうして銃を突き付けられる等日常的なのだろうか。日本なら狙撃される心配は少ないのだろうが、こうして目の前で照準を合わせられた状況を見てしまった以上、日本だから安心だとも言い切れない。
「恍けるなよアリス...大阪での一件以降、貴様の影を捜していた事くらい知ってるだろう?」
大阪の、が何を指しているのかは分からない。ただ、問い掛けられた女が口端に貼り付けた笑みを深めたから。
「問い詰めたいなら私達ノーツでは無く、賛美歌を口遊む白うさぎを逮捕なさったら如何ですか?」
僅かに彼女を心配した自分に、後悔した。
「キャロルの楽譜でノーツは踊りますが...指揮者の指先を私達の様な音符が図り知るなど、不可能ですからね」
まるで、自分がキャロルを構成する唯のノーツであり、キャロルを奏でる人物が別に存在しているかの様な。CarrollかCarolかも分からなくなる言葉遊びと、大阪の一件と指揮者と称されたもう一人の存在。
「なら認めるんだな、これが本物の仕業だったと...」
警部が眉を寄せながら取り出したのは、一枚の白いカード。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時