File.13-14 ページ42
初めて目の当たりにする衝撃が過ぎ去るより早く、
「あー、ワシだ!中森だ!杯戸シティホテル内を警戒中の各員に告ぐ!キッドは屋上だ!総員直ちに突入し、奴を取り押さえろ!」
何の予備動作も無く別の男声が飛び出して、無線に流れていく。
単純に、すごい、と思って思考が止まる。どういう仕組みなんだとか、発声方法の仕掛けが気になるとか、そんな事すら考えていないような一瞬の放心に次いで、そう言えばこの女も以前警察官に扮していたな、なんて。確かオレが真珠を見せてくれと声を掛けたのは結局コイツの変装だった筈だ。
何なんだコイツら。
そんな推理の欠片も無くした疑問を抱いている中、彼等は危機感など微塵も無いらしい。
「ふぅん...私は居ても居なくても変わらない、って事ですか?」
無線機を仕舞う男へ、態とらしく頬を膨らませて不機嫌さを見せた女が抗議を始める。如何やら警察を煽った今の無線に自分が含まれていなかった文句があるらしい内容だが、この状況で始める口論では無い。
「とんでもない、貴女を警察の餌にしてしまうのが偲びなかっただけですよ...My lady」
何が不満なのか不貞腐れた女の手を取って、白い手袋に隠された手背へ恭しくも優雅に口付ける様は紳士というより何処かの王子にも見えるが、日常茶飯事だと慣れているのか将亦興味は無いのか女の雰囲気は冷めた儘。
「自分の方が警察に人気だからって、自惚れてる癖に」
取られていた手を素早く返して男の手の甲を抓りながら、相変わらず不機嫌な口調を覗かせて「警部の熱量の差は最近特に酷いですもんね」なんて言い捨てているが、一体オレは何を見せられているんだか。
そんな飽きれさえ垣間見えてきた頃。
「動くなキッド!」
ヘリコプター数機が屋上を包囲して、ヘリの照明がまるでスポットライトの様に白い姿を照らし出す。間髪入れず屋上の扉を勢い良く開け放って来た刑事の声は、先程男の口から飛び出たものと同じ。
屋上に押し寄せてきた警察の先頭を切って踏み込んだ刑事は、拳銃を片手に握り銃口を白い彼等に躊躇無く向ける。
そんな緊張感は一方的なものらしく、
「これはこれは中森警部、お早いお着きで...」
なんて通りすがりの挨拶程度に口を開きながら、男は踊るマントの縁を掴んで、その白い翼で隣の女を包む様に隠してしまう。
危機感など見せない癖に、向けられた銃口へ放った一瞬の殺気は一体何人が気付いただろうか。
.
32人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時