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File.13-13 ページ41

徐々に近付いてくるヘリコプターの騒音にすら揺らめかない雰囲気をしっかりと見詰め、背後で時計型麻酔銃の照準を開く。



警察に気取られたと逃亡を決め込んだその瞬間、麻酔針を撃ち込む予定ではあるが、問題は何方を狙うかだ。何方が隙を見せるかは扨置き、女を眠らせたところで男が抱えて逃げる事は可能であり、男を眠らせたとて女が引き摺って逃げ切れない保証も無い。



何方かが片方を見捨てて逃げ果せる、なんて展開も考えられる。



そんな賭けにも似た狙いを見極めていれば、男の腕から手を離した女が数歩脚を寄せて来て覗き込む様に腰を折った所為で、思わず一歩後退る。日本人離れした薄い金色のブロンド髪が肩からさらりと流れ、月明かりを反射させた金縁のラウンドグラスから覗く眸と視線が重なった。



「ショルメ君...君にはどんなマジックを見せても、魅せられてはくれなさそうだね」



エルロック・ショルメ。オレをそう呼んだ声はソプラノで、透明感を持ち何処か神秘的な印象を与えてくる。その声が、ホームズと呼び掛けてきた日を思い出して、彼女は如何やら他人に小説やその他架空の登場人物を当て嵌めているらしいと納得する。



工藤新一がシャーロック・ホームズで、江戸川コナンがエルロック・ショルメとは偶然だとしても恐ろしい。



「どうかな...タネと仕掛けを暴きたくてワクワクするかも知れないよ、レイモンドさん?」



平成のアルセーヌ・ルパンと称される男と、エルロック・ショルメと呼ばれたオレ。其処からふと浮かんだ名前を添えてやれば見詰めた先の顔貌が緩く傾いで、小さな苦笑が零れた。吃驚した、なんてものでは無く舞台の決まった挙動であるかの様に淀みない所作。



「君に撃ち殺されるなら、それも悪くないかも知れない」



ぽつりと落とされた声に「え...」なんて音が喉から漏れる中、女の背後に立つ男が胸から無線機を取り出し、それに視線を攫われていれば女が折っていた姿勢を戻してヘリコプターへと目を向けた。



無線の周波数を合わせた男が小さな咳払いを零し、



「あー、こちら茶木だが!杯戸シティホテル屋上に怪盗キッド発見!米花、杯戸町近辺をパトロール中の全車両及び米花町上空を飛行中の全ヘリ部隊に告ぐ...速やかに現場に直行し、怪盗キッドを拘束せよ!」



壮年の男声を操って警察を装いながら、電波に声を乗せ始める。



勿論変声機等無い、人間の喉で為せる筈もない神業。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時

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