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𓂃 𓈒𓏸*⋆ஐ
一日で映画何本観られるか。
いつからそうなったのか。兎に角一瞬の昼食休憩を挟みつつ朝からSFアクション、ホラー、ミステリー、ラブロマンス、ファンタジーと続いて21時30分も過ぎた頃。
「何か、どれが何のシーンか分かんなくなってきた...」
黒髪のウィッグの毛先を弄びながら、すっかり暗くなっている帰路を歩く。隣で「あのトリックは中々良かったよな?」なんて映画の感想を口にする快斗だが、どの映画の何のトリックの話なんだか。いや、ミステリーはひとつだけだった気もする。
「...あれ、本当に使えそう」
人間を殺めたい理由や心理状態は理解は出来ないが、実際に用いればあの映画通りに殺人は出来るだろう。普段から殺人現場は不本意ながら見慣れているが、身近に感じられる内容のミステリー映画というのも悪くない。
屹度、あの名探偵なら直ぐに分かってしまうのだろうけれど。
ふと見上げた空は既に暗く、月影の無い夜空は雨雲が占めていて雷鳴が歌っている。今にも雨が降り出しそうで、今夜が予告日では無くて良かった、なんて考えてしまう。
「雨降りそう」
「そうだな、早く帰ろうぜ」
帰ろう、と言ってくれるのが当たり前になってきたのが良いことなのか、そうでは無いのかは分からないけれど。夜にも関わらず眩しい笑顔を見せる彼に頷いて、ポケットの中に収まっている手に腕を絡ませてみる。不意の其に特に驚くでも無く其の儘帰路を行きながら「何か食いたいもんあるか?」なんて降ってくる声に、相変わらずの優しさを感じて笑みが零れる。
「快斗は無いの?食べたいもの」
「オレ?...あー、何だろうな...」
そんな遣り取りですら楽しい気がして、小さく心が踊る。
一緒に居るのが当たり前で、同じご飯を食べて過ごすのが当然。そんな雰囲気が嬉しいなんて、数年前までは考えても居なかったけど。
此処が日本だから、というのもあるかも知れない。
平和な国というのは実に素晴らしい。
のんびり歩きながら夜ご飯は何にするか、なんて家庭的な会話を交わしていたのに。朝以来今の今迄鳴る事の無かったスマートフォンが振動して、着信を告げる。また土産の話かな、なんて画面を見て、有名な高校生探偵の其に首を傾げつつ。
「もしもしー?蘭ちゃんとの惚気け話なら...」
『蛍!今警察に追われてて...!』
工藤新一では無い声をした電話の主は、何故か逃亡中らしい。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時