File.13-12 ページ40
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しん、と静まり返った深夜。
宵闇の静寂に滑り込む様に降り立った二羽の鳥。
皺一つ無い白のスーツにシルクハットとマント。心まで見透かした様な不敵な笑みを隠す片眼鏡。隙の無い身の熟しで歩み寄って来た男は随分若い様な印象で、二十代か若しくは十代後半。開いた口から紡がれた声は若々しく華やかさを纏ったテノール。紳士的な雰囲気を感じさせつつ、子ども相手だからか口調は砕けた青年の様。
そして、そんな男の隣に付き添って静かに見下ろすのは、相変わらず掴みどころの無い女。
会うのは此で三度目になるが、この身体で逢うのは初めてになる女は、不思議の国のアリスを彷彿とさせるドレスでは無く幾分身軽そうな布の多いワンピースと、厚手な如何見ても冬仕様の毛足の長いカーディガン姿。父さんのファイルを元に言うなら、決まり切った衣装がある訳では無さそうな辺り本当に本人か判断が難しいかと思ったが、全てを掌握する様な澄んだガラスにも似た気配は見間違えようが無い。
キャロル・ノーツという怪盗集団を纏め上げる頭目らしいが、身内だけでなく怪盗キッドと呼ばれる此奴とも組んでいるとなると、占めて相当な数になるのだろう。それに加えて、過去の新聞記事などとも照らし合わせると、キャロル・ノーツの黒幕が居るというのだから随分な犯罪集団だ。
気を抜けば呑まれてしまうかの様な雰囲気に、自然と高まる鼓動を押し付けながら子どもらしく振る舞って米花博物館方面を指差す。
「あ、ほらヘリコプター!こっちに気付いたみたいだよ!」
警察の目を向けさせる為に打ち上げたロケット花火にも、幼さを出した声にも、驚くどころか動揺の欠片も見せない彼等の出方を伺っていれば、手袋で覆われた手を口元に宛てがいながら女が小さく笑った。
「ボウズ...ただのガキじゃねえな.....」
それを合図にした様に口を開いた男は相変わらず口調が若く、然し問い掛けてくる内容は核心を突いて包み隠さず。
「江戸川コナン...探偵さ」
子ども扱いで遇ってくる輩は扨置き、正面から向かい合ってくる奴等を調弄すのは趣味じゃない。本名を告げられないのは仕方無いと諦めつつ名乗れば「ホー...」だとか「あらまあ...」だなんて感情も乗っていない声が返ってくる。
「それより良いの?早く逃げないとヘリコプター来ちゃうよ...?」
夜の静けさを破るのは、ロケット花火に釣られて鋒を此方に向けたヘリコプターの音。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時