File.13-11 ページ39
東都タワーから大きく迂回して、一見警戒の無い杯戸シティホテルの屋上を見下ろして。
げ、なんて声が出なかっただけ褒められて良い。
眼下にひっそりと広がる屋上。日付も変わった深夜にホテルの屋上等使用するのは疚しい人間が大多数を占めるだろうが、其処に小さく見える少年の影に心中危機感を覚える。しかし、今回の予告相手は鈴木財閥。毛利蘭へ話が転がって、彼が興味を持っても何ら不思議は無い。
一度大きく羽搏いて、翼を仕舞って屋上の塔屋に降り立つキッドに続いて羽根を散らす。消え去った翼の分舞った羽根が夜風を踊り、春の雪の様に視界を飾っていった。
「.....」
突然降って沸いた様な人影に、振り返る小さな双眸。
こんな時間に子どもが何をしてるんだ、なんて疑問すら感じさせない真っ直ぐな視線と大人より肝の座った雰囲気に、自然と口端が持ち上がる。堂々とした佇まいは明らかに小学生が漂わせる其では無く、見た目にも中森警部より頼りになりそうな予感すら纏った、不思議な少年。
すっと、差し出された左手に、白い手袋で覆った右手を重ねた。
塔屋からふわりと降り、マントを綺麗に翻す彼に連れられて屋上へと足を着ける。ひらりと踊った水色の上着が肩から滑り落ちたが、肘辺りで止まった其を戻すでも無く好きにさせておく。背後で輝く月輪に照らされて伺える碧い双眸は、好奇心と警戒心に輝いていて鋭さしか見えない。
彼の澄んだ足音に合わせて、黒いブーツを鳴らす。
一瞬の油断すら儘ならない様な独特な雰囲気に、一段と吹き付けた夜風が嘲笑っているかの様な。
「よぉボウズ...何やってんだ、こんな所で」
立ち止まったキッドが隙の無い儘口を開き、それを合間に重ねていた手を滑らせて左腕を抱く様に腕を絡ませる。彼の左手はポケットへと収められ、不測の事態に備えるかの様に潜んでしまう。
子ども相手という事もあり軽い口調を見せた彼の問いに間を置いて、無言の儘背を向けて屈んだ少年は足元の空き缶に立て掛けていたロケット花火に着火した。音笛花火だったらしい其は、甲高い音を奏でながら上空へと飛び出して暗闇に弾けて花火として散っていく。
「花火！」
振り返った少年は今までの雰囲気は何処へやら、あどけなさを纏って可愛らしい笑顔と共に口を開く。
驚くでも無く、狼狽えるでも無く、唯々見詰めて状況を見誤らない様に慎重に。この均衡を間違えば一瞬で敗北する様な。
そんな雰囲気。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年2月21日 3時
