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File.13-10 ページ38

そんな寺井さんが小さな咳払いと共に声を掛けてきた訳だが、疑問符を返しても次の言葉は現れない。



「え、ごめん...何かした?」



常に紳士的な彼が言い淀むとは珍しい、なんて首を傾げつつ白いスーツにシルクハット、マントを身に付けた快斗、というよりキッドへ鋒を向ける。外見は満点の紳士な癖に真顔の儘「白か...」なんて呟いた犯罪者に、成程とスカートの裾を摘んでゆっくり持ち上げて。



「残念...白は白でも、青いサイドリボンの.....」



「お、お嬢様!」



唐突に野外で始まった真顔のお巫山戯に、先に声を荒げたのは勿論寺井さん。「別に快斗しか見てないんだし」なんて理由になっていない理由を零しながらスカートから手を離し、小さな余韻を残しながら膝下の黒ブーツを撫でる様に揺れるフリルを見送る。



「んだよ寺井ちゃん、良いとこだったのによ...」



「ぼっちゃま!紳士として在るまじき破廉恥ですぞ!」



寺井さんが真面目、な訳では無く私達の感覚がおかしいのだろうが、確かにこの格好で東都タワーの上で人知れず遣る事では無い。怒られても仕方無いかと肩を竦めつつ「家までお預けね」なんて、意味有り気に微笑んで悪質な冗談を投げ入れれば、はっと息を飲んでわなわなと慌て始める寺井さんが見られて面白い。



エイプリルフールに悪戯を仕掛けたくなるのは仕方無い。



「へえ、そいつは楽しみだな」



「だったら早く帰らないとね」



まあ、別に嘘でも本当でも何方でも構わないのだけど。



さらりと髪を撫でていく夜風に深呼吸を乗せて「狙いはスカートの中じゃなくてビッグジュエル」と呟けば、隣で白い翼が広げられる。



「ああ...鈴木財閥の至宝『漆黒の星』」



「ぼっちゃま方...最早止めはしませんが、盗一様が常々言っておられました」



拝借する予定の黒真珠と、盗みたい訳では無い金色真珠。



「客に接する時、それは決闘の場。決して驕らず侮らず相手の心を見透かし、その肢体の先に全神経を集中して持てる技を尽くし...」



「なおかつ笑顔と気品を損なわず」



「いつ何時たりとも...ポーカーフェイスを忘れるな、だろ?」



未だに盗一さんの声で鮮明に思い出される言葉を拾い上げて、展望台の縁から重心を傾け夜闇に身体を放り投げる。



再び開いた純白の翼は軽く身体を持ち上げ、優雅に滑空するキッドの隣をふわふわと羽搏きながら白が舞う。



プワソン・ダヴリルが始まってもう直ぐ三十分。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時

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