File.13-9 ページ37
𓂃 𓈒𓏸*⋆ஐ
人間は何処までの高度を飛べるのか。
そんな疑問に直面するのは、飛ぶ人間だけなのだけれど。
極端な話、小型の酸素ボンベを持っていればエベレストの山頂にだって行けるが、気圧の変化で身体が悲鳴を上げても無視して頑張れば。という話だ。所謂高山病になってまで努力しなければならないのは、今では無い。
寺井さんから頂いた双眼鏡を片手に、地上の目を避ける様に遥か上空で羽搏く。
半分以上が欠けた月が普段より格段に大きく見える深夜。そろそろ日付も変わろうかという頃合いに、遥か下に臨む眼下を双眼鏡で盗み見れば、道路脇に停車しているしている自動車種を自動解析してくれる。米花博物館周辺にはパトカーに装甲車、警視庁のヘリコプターが待ち構えているが、生憎杯戸シティホテル周辺には一般車両しか見当たらない。
まあ、普通に考えて咋にパトカーで張り込む馬鹿は居ない。
「はいはーいこちらリデル、杯戸シティホテル周辺に長時間駐車中の一般車両は3台...屋上に人影はありません、どーぞ」
カジュアル気味な襟の大きい白い膝下フリルワンピースの上から羽織った水色の厚手のカーディガンがふわりと踊る中、イヤホンから聞こえてきた『りょーかい』なんて相変わらず軽い声に一度大きく羽搏いて身を翻す。ばさりと鳴った翼に揺られて、ブロンドに乗せた紺色のベレー帽を飾る白のレースリボンが棚引いた。
静寂を守る夜闇に鐘の音が響いたのは、零時を告げる時計台の歌。
後三十分だと報せる音に、つい最近だった様な遥か昔だったかの様な一夜を思い出して苦笑すら零れる。逃げ回る数日間の火蓋を切った一件は、今となっては懐かしい。
白い翼を寄せて一気に高度を落としつつ、春の夜を彩るイルミネーションを纏った東都タワーの展望台の上へ着地する。仕舞った拍子にばさりと盛大に散った羽根は、普段人間が立ち入らない其処に大量の白を撒き、夜風に乗って中空へと舞って行く。
速度も大して落とさず突っ込んだ其処に起きた風に、ふわりと広がったスカートがペチコートのフリルを踊らせて、落ちた羽根を巻き上げた。
「Aお嬢様...」
「.....え、なに？」
立ち上がってラウンドグラスを押し上げていれば掛かった声。黒羽盗一氏の付き人であったが、彼の亡き今は快斗の怪盗業の補助を行っている男性。時折彼の身を案じて付き添っているが、今夜も例に漏れず東都タワーの上にまで来ているらしい。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年2月21日 3時
